ニッポン野球界への「怒り」と「希望」 日本の野球に未来はあるのか?

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まず、一般社団法人には各種の制約がある。その中で、NPBが発展するうえで重い足かせとなっているのが、内部留保を自由に使えない点だ。一般社団法人を構成する社員(会員の意味)に対し、収益を分配することはルール上できない。オールスターゲームは12球団が共催し、NPBが運営を任される形になっているが、そうした仕組みによって収益を各球団に還元している。

侍ジャパンの運営方法を決める際、株式会社型と同時に検討されたのが共催型だった。オールスターと同じように、12球団、さらにアマチュア球界が共催し、侍ジャパンのプロジェクトを動かす方法でも、収益をステークホルダーに還元できる。

しかし共催型の場合、スポンサー獲得において足かせがはめられる。「侍ジャパン株式会社」はチームに年間スポンサーを獲得することができる一方、各種大会ごとでしかひとつにならない「共催型侍ジャパン」は、年契約で支援企業を募ることができないからだ。概念で言えば、「チームをサポートする」のか、「イベントをサポートする」のかという違いになる。

侍ジャパンの運営やガバナンスを考えても、株式会社のほうが動かしやすい。共催型では現在のNPBのように、その都度、各種理事会や委員会で議論する必要があるが、株式会社としてトップを明確にしておけば、意思決定のスピードを上げることができる。責任者=リーダーを明確にする、という点においても、株式会社のほうが適している。

旅行業界と野球業界の共通点

ひとつ言っておきたいのは、侍ジャパンが収益拡大できれば、野球界にはさまざまな恩恵があることだ。少年世代への普及活動、プロ野球12球団の発展、アマチュア球界の環境向上など、多くの手を打つことができる。侍ジャパンのビジネスは「悪」ではなく「善」であり、さらに言えば、事業を担当している荒木重雄や前沢賢のような優秀なビジネスマンが、単に金儲けだけを考えた場合、NPBで働いていないはずだ。

侍ジャパンに魂を込める者は、ほかにもいる。2017年のワールド・ベースボール・クラシックまで公式スポンサー契約を結んだのが、旅行会社のJTBだ。彼らが共鳴するのは、野球が「おやじスポーツ」化しているからというのが興味深い。

JTBスポーツビジネス推進室長の五十嵐善寿が語る。

「現状において、野球とJTBは似た部分があると思います。弊社は旅行業界で最大手と言われますが、創業から100年が経ち、旅行業も大きく変化しています。おそらく野球も同じ。長嶋茂雄さんが現役だった頃はみんなが憧れ、黙っていても野球部に入る時代だったのが、あっという間に風潮が変わりました。現在、JTBは新興旅行会社と比較されますが、野球界とクロスオーバーするイメージが私にはあります。野球も旅行も、ファン=お客様が大事。多くの味方をつくっていかなければなりません。侍ジャパンにもそういう趣旨があると思うし、共有したい。侍ジャパンとJTBが一緒になり、成長していくのがあるべき姿だと思います」

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