ヤマ発「柱の2輪事業」、ホンダとの埋まらない差 赤字が続く先進国で「構造改革」に踏み切る

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2輪事業における先進国でのリストラは今回が初めてではない。2009年には業績悪化を受けて、イタリアのバイク組み立て工場を閉鎖。その後もスペインの組み立て工場を閉鎖し、国内でも生産能力を半分にまで削減した。また、2015年に発表した前中期経営計画でも先進国2輪の収益性改善を目標に掲げ、エンジンや部品の共有化、デザインの改良などに取り組んだが、それでも赤字脱却はかなわなかった。

フラッグシップモデルのYZF-R1。スーパースポーツという位置づけで、サーキットなどでの走行も想定される最上位モデルだ(写真:ヤマハ発動機)

そこで構造改革の追加策として打ち出したのが、今回のイタリアのエンジン工場売却だ。ヤマ発によると、同工場の譲渡により、年間約20億円規模の赤字圧縮効果が見込めるという。欧州における同社の2輪販売は18.6万台(昨年実績、日本は8.8万台、北米は6.3万台)で、先進国の中ではもっとも重要な市場だが、エンジン工場売却後、現地の2輪関連の製造拠点はフランスの組み立て工場のみになる。

欧州に加えて、おひざ元の国内でも2輪事業の構造改革が進む。現在の生産能力(年間20万台)にはまだ過剰感があるため、人員の配置転換で16万台まで引き下げ、固定負担を減らす。余剰人員は、収益の大黒柱に育ったマリン事業(船や船外機)のほか、半導体製造装置などを手がけるロボティクス事業など好調な部門に異動させる計画だ。

成長牽引した新興国にも陰り

先進国の赤字を新興国で埋めて全体では黒字を確保してきた2輪事業だが、そうした図式が今後も成立しうるとは限らない。新興国での販売台数自体も近年は頭打ちとなっているからだ。

ヤマ発の新興国販売はインドネシアやベトナム、タイが中心だが、東南アジアは金融引き締めや景気悪化などで近年は2輪の市場自体が縮小し、以前のような成長の牽引役とは言えなくなっている。そこにさらに新型コロナ影響が重なり、当面は厳しい販売環境が続く。また、所得水準が上がれば移動手段が2輪から車へと切り替わるため、将来的には新興国での販売台数、利益とも縮小していく可能性が高い。

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かといって、赤字が続く先進国の2輪を止めるわけにはいかない。2輪メーカーとしてのブランド力、さらには排ガス規制対応など最新技術の開発を担うのは先進国向けの車種だからだ。2輪事業全体で考えれば、先進国での展開は必須と言える。

ヤマハ発動機の源流でもある2輪事業は、長年の課題である先進国の赤字から果たして脱却できるのか。今度こそ、赤字解消は待ったなしだ。

中野 大樹 東洋経済 記者

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なかの たいじゅ / Taiju Nakano

大阪府出身。早稲田大学法学部卒。副専攻として同大学でジャーナリズムを修了。学生時代リユース業界専門新聞の「リサイクル通信」・地域メディアの「高田馬場新聞」で、リユース業界や地域の居酒屋を取材。無人島研究会に所属していた。趣味は飲み歩きと読書、アウトドア、離島。コンビニ業界を担当。

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