2027年「リニア」、いよいよ今秋着工へ ついに総額9兆円の巨大プロジェクトが始動

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運営JR東海1社、財務リスクは9兆円

もっとも、リニアにはリスクも潜む。

リニアの総工費は、27年の名古屋開業までが5兆4300億円、45年の大阪開業までを含めると9兆0300億円。かつての東京湾アクアラインが1.4兆円、関西国際空港(2期工事)が1.6兆円だから、いかに大規模かがわかろう。これを民間会社のJR東海が1社で資金負担し運営する。

見学センターでリニアを撮影しようと群がる鉄道ファン。大人から子供まで鉄道好きが集まる(撮影:尾形文繁)

JR東海が従来の整備新幹線と異なり、リニアを「全額自己負担で」と表明したのは、2008年のリーマンショックよりも前の、2007年12月25日。思わぬ“クリスマスプレゼント”で、同社株は株式市場で暴落した。

現在もリニアのカネの話が出ると、市場はネガティブな反応を見せることもあり、それだけ投資家の視線は厳しいものがある。

だからこそ、JR東海は約9兆円の巨大プロジェクトを、名古屋と大阪の2段階に分け、「ピーク時でも長期債務(長期借入金・社債)で5兆円を超えないようにした」(金子慎副社長)。裏返せば、長期債務が6兆円になると、ピーク時の資金調達が1兆円を超えるため、現実的には不可能となる。

デフレ脱却を目指すアベノミクスが続く限り、中長期的に金利反転のリスクは避けられない。債務5兆円として、金利が0.75%上昇すると仮定すると、年間で375億円利息が膨らむ計算になる。これは同社の年間配当可能利益322億円を大きく超える水準だ。

そればかりでない。人件費や資材費は高騰しており、人手不足ゆえ、受注を断念する公共事業の案件が各地で頻発している。ましてリニアは南アルプスを貫通するという、かつてない難工事だ。過去の大規模プロジェクトの例から、工期が計画より延び、総工費も9兆円では済まなくなる懸念もある。

果たして世紀のプロジェクトは成功するのか。2027年に向けて壮大な実験が始まろうとしている。

(詳細は「週刊東洋経済」5月31日号特集「リニア革命」をご覧下さい)

大野 和幸 東洋経済 記者

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おおの かずゆき / Kazuyuki Ohno

ITや金融、自動車、エネルギーなどの業界を担当し、関連記事を執筆。相続や年金、介護など高齢化社会に関するテーマでも、広く編集を手掛ける。

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