「下北沢」新施設は日本の不動産概念を変えるか 開発地域しか価格が上がらないというジレンマ
さらに、テナントに千葉県松戸市で空き家活用などに独自の取り組みをしてきた不動産会社omusubi不動産を入れるという手も打った。5坪はずっと店を続け、発展させるサイズではなく、最初の1歩。そこで成長し、次の店舗が欲しいと思ったとき、あるいは外からボーナストラックを見てこんな店舗を出したいと思ったとき、ウチの空き家をあんなふうに使ってほしいと思ったとき、どんな場合にも不動産会社は必要だ。
つまりボーナストラックはこの敷地内だけで稼ごうとするのではなく、ここからかつての下北沢を再生し、周囲の空き家を活用するための拠点。外に波及して周辺地域である世田谷区や小田急沿線の価値を上げるための施設なのである。
一方、グリーンスプリングスを運営する立飛ホールディングスの村山正道社長が多摩の情報サイト「イマタマ」のインタビューで、グリーンスプリングスは単にオフィス街を作るのではなく、地域の可能性を見いだすプロジェクトと明言。開発区域だけを見た事業ではないことは共通している。同社は立川市全体の広さの約25分の1を所有する立川の大地主。グリーンスプリングス単体ではなく、立川全体の価値向上が主眼というわけだ。
開発地域のみ地価が上がるジレンマ
従来型の開発は都心部を除き、意外に周囲への波及効果が薄い場合がある。ここ何年か路線価図を持って街を歩くというイベントをやっているのだが、開発地域とその周辺地域の開発後と10年前などの路線価を比べてみると、開発区域だけがぐんと上がっており、道1本隔てたところはさほどではないという例をしばしば見る。
郊外の場合、この傾向は特に顕著で、時には再開発エリアだけが極端に上昇し、それ以外の古い住宅地は軒並み下落ということも。そうした地価の二極化は住民間に対立を生みかねず、行政の舵取りも難しくなろう。従来型開発では、開発地域に不動産を入手した人などはピンポイントで得するが、必ずしも地域全体の価値が上がるわけではないのである。
だが、地域の価値が上がらなければ、不動産の価値も上がらない。開発で特定地域にカンフル剤を打ったとしても、それでもなお周辺が衰退していくとすれば、カンフル剤効果がいつまで続くことか。室内が豪華で素晴らしくても外観がボロボロでエレベーターが動かないマンションや、寂れた地域に建つ豪邸に食指が動く人が少ないことを考えればすぐにわかる。
最近、不動産業界では集合住宅の個別住戸に多額を投じて手を入れるよりも、建物全体の外装や植栽、デザインなどに費用を掛けることで全住戸の価値を上げるというやり方が出始めている。これは一戸だけをよくするのではなく、全戸に影響を及ぼすやり方で、実はこのほうが、費用対効果が高いこともある。
では、地域全体の価値を上げる開発はありえるか。海外ではいくつかそうした事例がある。今回のボーナストラック、グリーンスプリングスのような緑の多い空間から想起する例としては、例えばニューヨークの「ハイライン」だ。
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