「下北沢」新施設は日本の不動産概念を変えるか

開発地域しか価格が上がらないというジレンマ

店舗も建物の面積の半分までとされているため、商業施設にしようにも店舗併用住宅しか建てられない。だが、制限があるにせよ、ボーナストラックではそれよりもはるかに小さな建物しか建てられていないのである。

もう1つのグリーンスプリングスも同様に贅沢な土地の使い方をしている。場所は立川駅から徒歩5分ほど。多摩都市モノレール沿いの緑道「サンサンロード」に面した細長い約3.9万㎡の土地で、中央に中庭を配し、その周囲にホテル、商業施設、金融機関、ホール、オフィスなどの9棟が配されているのだが、中庭の面積は約1万㎡。全体の4分の1ほどが庭なのだ。

立川の「グリーンスプリング」は公園並みに緑が豊富な施設だ(写真:筆者撮影)

最近の開発では環境に配慮したと言いながらも、形ばかりのビオトープや壁面緑化などを取り入れる例を見るが、グリーンスプリングスのビオトープはそうしたものと異なる本気の広さ。ホールの脇に作られた全長120mにわたる水が流れる階段状のカスケードと合わせ、人工地盤上の開発エリアというのに、そんじょそこらの公園よりはるかに自然を感じる空間になっている。

この場所だけで稼ごうとしていない

こうした贅沢な空間が可能になったのはどちらもこの場所で、というよりも"この場所だけで”稼ごうとはしていないからである。例えば、ボーナストラックを開発した小田急電鉄はそもそも稼げる土地ではないことを踏まえたうえで、跡地利用に当たり、地元の声から地域に2つの課題があることを把握。それを解決するための方途を織り込んで施設を考えた。

1つは、下北沢自体の個性の喪失だ。かつての下北沢は渋谷、新宿いずれからも少し離れた、その分賃料が安い場所ゆえに個性的な個人店が集まり、それが街の魅力になっていた。ところが、商店街を中心に賃料が上がるとともにチェーン店など大きな資本による均質な店が増え、その魅力が薄れてきている。これは下北沢に限らず、吉祥寺など人気と言われる街ではどこででも起きている現象である。

もう1つは空き家問題。世田谷区は人気のあるエリアであるにもかかわらず、総務省の2018年の住宅・土地統計調査の確定値に基づいた分析では5万戸ほどもの空き家がある。しかも、世田谷区で顕著なのは市場に出ていない空き家の割合が2~3割にも及ぶという点。問題視されず、放置されているのである。実際、下北線路街周辺でも空き家と思しき建物をあちこちで見た。

これらの課題に対してボーナストラックでは、入居者と想定した地方で起業し、個性的な経営をしている人たちにヒアリング。個人事業主でも借りやすい賃料15万円の「店舗と住宅」を作った。また、お店を始めやすい面積として、1階、2階ともに5坪(16.5㎡)というサイズにし、開発にかける工事費は賃料から逆算し、事業計画を立てた。若い、面白い人たちの出店を促すことで、かつての下北沢の勢いを再現しようとしたのだ。

同様に個性が失われつつあるほかの街では若い人たちに貸したくとも、人気があるだけに空いている不動産がなく、賃料が高止まりしているため、借りやすい賃料を設定することも難しい。ボーナストラックは地下化をうまく生かした珍しい例なのである。

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