犯人は生き物好き?池にブラックバスを放つ謎 悪質行為で貴重な生物の命が失われていく

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実際に、ビオトープがある下池でも悪質なバサーとの摩擦は起きていました。下池ビオトープの周囲にある人気のバス釣りスポットには、平日でもバサーの姿があります。他県ナンバーの車も来て路上に駐車しています。

こうした車が道路をふさぐことで、地元の農家が使うトラクターなどが通る際の妨げとなることがしばしばあるそうです。その程度ならまだしも、注意されたことをきっかけに一部の悪質なバサーと地元の方との間で口論や、つかみ合いなどのトラブルも起きているといいます。

こうした中でビオトープに何度も執拗にバスが放されたことが、関係者に「悪質バサー犯人説」を呼び起こしています。放流した人物が、地元の歴史や、ウシモツゴ復活の経緯をどこまで知っていたのかは分かりませんが、そこに何か大事なものがいることは理解していたのでしょう。

ブラックバス放流事件がSNSやネットメディアなどで話題になると、不思議な出来事が起きました。東海タナゴ研究会宛てに突然、防犯カメラが送られてきたのです。同封されていた伝票には「我々も密放流は絶対に許しません!協力させてください!!バス釣りファン一同より」と書かれていました。

生物の多様性を守る必要

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東海タナゴ研究会の北島さんは「どうして送ってくれたのかは分からない」と断った上で、「バサーにもいろんな人がいます。それに水辺というのは国民の財産であり、誰でもアクセスできる権利があります。できれば誰かを閉め出したりせず、みんなで水辺を利用できる解決策を考えたい。甘いといわれるかもしれませんが」と話してくれました。

水辺は誰かだけのものではなく、末永く大事に使っていかなければなりません。ですが、ブラックバスの密放流は犯罪であり、絶対にやってはいけません。また、水辺の生物多様性を保全して、その恵みを次世代へも引き継いでいくためには、バスを取り除いていく必要がある場所がほとんどでしょう。

防犯カメラを送って来た「バス釣りファン一同」の皆さんと地元の人々が今後どう協力していけるかに期待し、注目しています。

小坪 遊 朝日新聞科学医療部記者

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こつぼ ゆう / Yu Kotsubo

1980(昭和55)年福岡県生まれ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了後に朝日新聞社入社。松山総局、京都総局などを経て2013~15年に、福島総局で東日本大震災・原発事故の取材を担当した。

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