自分でこの20年ほどを振り返ってみても、過去には「たまねぎ入りの焼酎」「売り場の棚に入らない突飛なデザインのドレッシング」「胃に穴が開いたかと思ったほど高酸度の『飲むお酢』」「『どんどん試飲して下さい』と言われても二口と飲めないワイン」などなど、直接手にとった特産品だけでも、驚くべきものが多数ありました。
これらのすべては「ぜひ近くの商店街でも取り扱ってほしい」という要望をもらいましたが、あまりにひどい商品だったので「売れませんので、ぜひ改善を」ということを提言しました。しかし、残念ながら、こうした売り込みをしてきた人たちとはすべて音信不通になってしまいました。
「分不相応な予算」がつくと、どうなるのか?
世の中では、農業生産物を高い技術で加工・販売することにより利益率を改善しようとする「6次産業化」という話がなされるようになって久しいのですが、未だにこうした恐ろしい商品が生み出されるのは「作ることだけ」でも自治体などの予算がつくからです。
本来、商品開発というのは、目的ではなく、儲けるための手段です。しかし6次産業化が政策になってからは、さまざまな支援体制が作られたことにより「予算をもらうために特産品を作る人たち」が多く出てきました。つまりは「予算獲得の手段としての特産品」という側面が強くあるのです。
しかし、税金を使って素人が思いついた特産品でいきなり地元が稼げるようになるなどということは、確率から言ったらほぼゼロに近いものです。むしろ「分不相応な予算」がつくからこそ、いきなり大風呂敷となり、重要な「きめ細かい営業努力」などをしなくなってしまうことも少なくありません。なぜなら、こうした場合、「次なる予算を獲得する」ほうに労力をさくほうが、営業するよりも、まとまったお金が入るからです。
実際、農林水産省が推進してきた6次産業化ファンドなどを推進する目的で319億円の基金を元手に作られた「農林漁業成長産業化支援機構」(A―FIVE)はどうなっているでしょうか。2018年度末段階では累積損失が92億円超の状況となり、問題視されています。
農水省所管事業だけではありません。「雇用創出」の名のもとに進められた厚生労働省による特産品開発もあれば、「商店街空き店舗対策」としての取り組みもあります。このように、さまざまな予算を活用して「売れない特産品」が全国各地に多数量産されているのです。
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