航空機並み速度のリニア走らせるテスラの思惑 「ハイパーループ構想」のインパクト

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彼の動向を見ていると、お客様志向というよりは、自分なりのビジョンや主義があり、その実現に対しこれまで培ったサイエンスなどを活用し、何がなんでも実現させる。そのような強い信念が感じられます。

地球の人口が増えすぎるから、火星に移住する。そのためにはロケットが必要だ。だからスペースXという企業も手がける、といった具合です。そしてもちろんそのロケットにも、テスラ同様自動運転技術が導入されています。

モビリティとしてもほかの自動車を圧倒している

テスラ(モデル3)は私も乗っていて、いま爆発的に売れています。売れている理由にはいくつかありますが、車のコンセプト、プロモーションの巧みさだと感じています。これまでの電気自動車は、どうしても環境に優しい、との点が強調されていました。もちろんテスラの電気自動車もそうなのですが、エコに加え、スピード、かっこよさをテスラは意識しています。

実際、実物を見たり乗ったりするとわかりますが、まず、見た目がクール。いわゆるスポーツカーのようなデザインです。そして、速い。とくに加速に関してはアクセルを踏み込むと、ガソリン車とは比較にならない勢いで飛び出していきます。

かっこよくて、速くて、環境にも優しい。それでいて500万円程度で購入できる。このようなコンセプトが受け、それまではBMWやメルセデスといった高級輸入車に乗っていた意識の高い若者が、こぞってテスラのモデル3に乗り換えるようになりました。まるでプリウスが出始めたころのような状況が、アメリカでは起きているのです。

プリウスのときと同じく、ハリウッドのセレブがこぞってテスラに乗り換えていることも、人気をさらに押し上げている要因の1つです。そのため広告は一切打っていないのですが(これも販売戦略の一貫だと思われます)、現在、注文してから納品までは数カ月という状況です。

納品まで長いため、私はテスラのほかにもう1台購入しました。ガソリン車です。そのため両者の違いがよくわかります。ガソリン車にはもう乗りたくない。そう思わせるほど、テスラは快適です。また、カリフォルニア州では2035年からガソリン車の新車販売を禁止する方針が既に出ています。

とくに便利なのが半自動運転機能です。ガソリン車にも備わっていますが、精度がまったく異なります。ガソリン車の半自動運転機能は、どこか違和感があるというか、レーンからはみ出すことはありませんが、スムーズではないのです。

 一方、テスラの半自動運転はまるで人が運転しているかのようにスムーズです。これはハンドル操作に限らず、アクセルやブレーキの操作でも同じです。そのためテスラであれば、高速道路に入り半自動運転を設定。あとは何もすることなく、それでいて快適に高速道路を降りるまでの運転をほぼ代行してくれます。

 なぜ、ここまで違うのか。車を開発するそもそもの発想が、テスラと旧来の自動車メーカーでは異なるからです。これまで自動車メーカーは、車両にコンピュータを載せることで自動化などの機能を備えていきました。

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ところがテスラは真逆です。コンピュータに車輪をつけているとの考えだからです。このような考えですから、ソフトウェアの処理が抜群に優れているのです。運転席まわりもメーター類はなく、あるのはタッチパネルだけ。無駄な装備が一切なく、このあたりはアップルのデバイスに近いです。

グーグルの元会長、エリック・シュミット氏が興味深い発言をしています。「車とコンピュータは出てくる順番を間違えた。どう考えても正解は、コンピュータに車輪をつけることだ」と。実際、油圧などの機械的な機構ではなくソフトウェアでブレーキの制御などを行っているから、テスラの乗り心地はスムーズなのです。

車体が大きいこと、短い時間での乗車が多いこと、自動運転の魅力が伝わらないこと。このような理由からか、現時点では日本ではそれほど走っていないようですが、今後どのような状況になるのか、注目しています。

山本 康正 ベンチャー投資家、京都大学経営管理大学院客員教授

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やまもと やすまさ / Yasumasa Yamamoto

東京大学で修士号取得後、NYの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得し、グーグルに入社。フィンテックやAI(人工知能)などで日本企業のデジタル活用を推進し、テクノロジーの知見を身につける。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム「US-Japan Leadership Program」諮問機関委員。京都大学経営管理大学院客員教授。日本経済新聞電子版でコラムを連載。著書に、『シリコンバレーのVCは何を見ているのか』(東洋経済新報社)、『世界最高峰の研究者たちが予測する未来』(SBクリエイティブ)、『アフターChatGPT』(PHP研究所)、『テックジャイアントと地政学』(日本経済新聞出版)など。

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