30代の妻を豹変させた韓国社会の壮絶な過酷さ 映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が描く実際
「義理のお母さんの電話は、まさしくパワハラですよね。それから、男性の『家事を手伝ってやるよ』という意識が気になりました」と語るのは、66歳の歯科医師、矢野正明さん。
「僕も含めて、男性は女性の負担や気持ちに気づいていないと思います。今でこそ、僕は食事作りも洗濯も掃除も何でもやっていますけれど、『だから何なのよ』とかみさんには言われそう。子どもが小さかった頃は、仕事がメインでしたから。僕らの世代が、男性が働いて女性が家事というのは違うよ、と言って変わっていかないといけないし、変わっていかざるを得ないと思います」
韓国では育休取得は容易ではない
映画版『82年生まれ、キム・ジヨン』の監督は、子育てを終えた46歳で韓国芸術総合学校に入って映画製作を学び、本作が長編デビュー作になった女性のキム・ドヨン氏。デヒョンについて、同作のオフィシャルインタビューでこう語っている。
「デヒョンは、ジヨンのことを気遣ったり心配したり悩んだりする姿が印象的ですが、ジヨンが発病する前は、そういうことをする人ではなかったように描いています」。そのほうがリアルではないか、とデヒョン役のコン・ユ氏と話し合った結果、作り上げた人物像だという。
原作、映画とも女性差別や男性の意識の希薄さなど日本人でも「自分ごと」として捉えられる問題を扱っているが、同作を見る上でポイントとなるのは日本と韓国の社会的状況の違いだと、ジェンダー論と東アジア研究を専門とする東京大学大学院の瀬地山角教授は指摘する。具体的に言えば、韓国の男女が置かれている状況の方が日本より厳しいという。
まず、育児休暇については、日本では、女性が働き続けようとする際、育休を取らない人は少なくなったのに対して、韓国の女性は産休明けに働くことも多い。
【10月22日15時37分 瀬地山教授の発言内容に一部誤りがあったため、下記の通り、修正いたしました】
「原作にもありますが、2015年の段階でも10人中4人は育休なしで職場復帰しています。しかも、しかも、オリニジップ(日本の保育園に相当する機関)は日本ほどには普及しておらず、2時3時までの短時間利用しかできないケースもある。育休をちゃんと取れるのは、公務員と一部の財閥企業しかない。だから、気の狂うような就職活動が行われるんです」(瀬地山教授)
同作でも、ジヨンは就職活動に落ちまくり、卒業式の直前にようやく条件の悪い広告会社に就職する。育児休暇を取って働くことは無理な職場だったから、退職してワンオペ育児に追い詰められる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら