30代の妻を豹変させた韓国社会の壮絶な過酷さ 映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が描く実際

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ふだんの家事については、どうだろうか。「韓国では、日常の食事はキムチなどの常備菜が冷蔵庫に入っていて、ご飯を常にジャーに用意しておくことと、味噌汁などの温かいものを1つ用意すればいい。ただ、夕食の支度は圧倒的に女性が行う比率が高いのが、日韓に共通する特徴です」と瀬地山教授。

日本では、毎食異なる料理を用意する傾向が強いが、日常の食事の中食・外食依存率が4割以上もあり、料理の省力化が進む。特にここ数年は、家事論争が活発になり、省力化のノウハウを伝える情報も格段に増えた。何より、ていねいに家事をするべき、という社会からの圧力がほぼなくなっている。

一方、韓国では「家事に対して、情緒的な意味づけを与えて手を抜かない、という感覚が強い。原作で、赤ちゃんの衣類など白い洗濯物を煮洗いすシーンがありました。めちゃくちゃきれいになるんですが、手間がかかります。こういうことをいまだにやっていることへの驚きがありました」と瀬地山教授は指摘する。

女性の味方になる男性が増えている

翻って日本はどうか。「日本では出産時の継続就業率がかなり上がっています。共働きが増え、女性への家事と仕事の二重負担が増えなければ、変わる可能性があります」と、瀬地山教授は話す。

男性の給料が上がりにくくなり、雇用も不安定化した日本では、平成世代が働き続ける道を選択することで変化が生まれつつある。それは、均等法世代以降の女性たちが、数は少ないとはいえ仕事を続け、管理職に就くなど決定権を持つようになったからだ。そしてその世代への道を作ったのは、1970~1980年代に、フェミニズム・ムーブメントの一端を担った女性たちである。こうして女性たちの粘り強い運動は、小さいながらも実を結び、子育てする現役世代に力を与えている。

女性たちを勇気づけるもう1つの力は、味方になる男性が増えていることだ。女性差別の問題についての知見や情報も、蓄積されて広まっている。また、男性も給与水準が下がるなど自身が置かれる環境が悪化したことにより、変化を求める人が多くなった。

実際、映画を観た男性たちは、口をそろえて「変わらなければ」と言っていた。2010年代後半には、育休取得を望む男性へのパタハラ訴訟も相次いでいる。何しろ、日本の男性の育児休暇取得率は、2019年度で7.48%と、2025年に30%の目標達成には程遠い。

こうした状況を変えるため、厚生労働省で男性産休制度の新設を検討する議論がこの秋本格化し、来年の通常国会での関連法改正を目指している。

男性たちの意識は変わりつつあり、社会を動かし始めている。女性たちが声を上げることも大切だが、男性も共に働きかけなければ社会は動かない。この映画は、その動きを加速させることになるだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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