あの「まんが王国」が老舗出版社を買収した必然 電子コミックの市場拡大で業界勢力図に異変

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好況の一方で、電子コミック配信サービス間でのユーザーの獲得競争は厳しさを増すばかりだ。通常、電子コミック配信サービスは各出版社や電子書籍の取次事業者と漫画作品の配信契約を結び、自社のWebサービス、アプリを通じて配信する。

ただし扱う作品は横並びになりがちで、どのサービスも大きくは変わらない。各社は特定作品を独占的に先行配信することなどで差別化し、ユーザー獲得、囲い込みに力を入れている。一方でコンテンツを提供する出版社側からすると、多くの読者に作品が読まれ、より有利な契約条件を提示する配信サービスに独占配信を許諾するほうがメリットとなる。

大ヒット漫画『鬼滅の刃』(集英社刊)のような作品では、独占配信の許諾が得にくい。各サービスは自社の読者層と親和性のある過去の作品を発掘したり、ウェブトゥーンと言われる韓国の電子コミックを国内配信するなど工夫を凝らしている。

オリジナル作品のために専任編集者を配置

差別化の手段が限られる中、カギを握るのが電子コミック配信サービス発のオリジナル作品だ。許諾が必要な出版社の作品と違い、オリジナル作品であれば独占先行配信などを自社の裁量で進めることができる。

ぶんか社は『義母と娘のブルース』など人気作品を有する(写真:ビーグリー提供)(c)Rin Sakurazawa/BUNKASHA

すでに成功例は出てきている。女性向けを中心とした電子コミック配信サービス「めちゃコミック」を運営するアムタスは、パートナー出版社や編集プロダクションに制作を委託する形でオリジナル作品の連載に力を入れてきた。その中から誕生したヒット作品が『青島くんはいじわる』だ。

同作品は「一話単位の販売だが、単行本に換算すると累計100万部以上」(アムタス親会社のインフォコム広報)を達成している。作品販売による売上増はもちろん、Web広告などで独占先行配信を積極的に訴求することにより多くのユーザー獲得につながっている。

「一般的な作品と比べて、独占先行配信のオリジナル作品は、広告によるユーザー獲得の効率が非常に高い」と、アムタスの山下正樹社長は言う。

ビーグリーも社内に専任編集者を数名抱え、オリジナル作品を制作している。しかし大きなヒット作に恵まれず、ライバルに遅れを取っていたことは否めない。今回、ぶんか社を買収することにより、約60名の編集者がグループに加わることは作品の制作面で大きな後押しとなる。

これまでビーグリーは『コミック配信会社からコンテンツプロデュースカンパニーへ』という方針を掲げてきた。同社の吉田仁平社長は「(ぶんか社買収で)コンテンツ制作機能を補完した。ヒット作を生み出すための作品の裾野が広がったほか、まんが王国のユーザーの嗜好やトレンドを作品作りに反映していくこともできる」と意気込む。

来21年12月期からは、ぶんか社がヒット作品を生むことによる収入増と、オリジナル作品の独占先行配信などによる「まんが王国」へのユーザー流入増の両面で、グループ全体としてのシナジー効果を目指していく。

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