赤字が止まらないパナソニックのテレビ事業に“黄信号”灯る

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あと1年赤字なら撤退も!?3Dテレビの貢献もまだ先

パナソニック社内には「3期連続で赤字を計上した事業は撤退する」という明確な撤退基準が存在する。テレビ事業は前期に続く今10年3月期も赤字は確実で、すでにツーアウトの状況。このまま来期も赤字を計上すればまさしく撤退基準に抵触する。むろんテレビは特別な位置づけであるため、杓子定規に撤退させる可能性は低いだろうが、緊急事態と呼べる状況には違いない。

いったいどうするのか。パナソニックは「生産の軸をコストの安い海外へもっと移して行くことを考えている」(上野山取締役)と回答する。具体的には薄型テレビ用パネルのモジュール工程はすでに東南アジアに集中させている、と言う。ただ、こうした海外生産移転や部品の購買先を国内から割安な海外調達へと切り替えることなどでは、さほど劇的な合理化効果を生まないかもしれない。重要な点は、薄型テレビのコストセンターであるパネル設備を自社で抱えていることだ。これは人手を要さない装置型事業で海外移転してもコスト削減効果が薄い。先の「価格下落」か「工場の固定費負担」か、という袋小路を打開する決定打になるかどうかは不透明だ。

“期待の星“3Dテレビも今の出血を押し止める特効薬としては使えない。楽しむソフトが十分に流通していないことに加え、4月下旬に発売するラインナップも、「ビエラ」の最上級モデル2機種に3D視聴機能が付加されたというぐらいのハイエンド帯にとどまっている。中長期的には市場が拡大するにしても、目先のテレビ事業の収益に与えるインパクトとしてはわずかだ。

いっそのこと、自社テレビは3Dのような高付加価値品に絞り込み、パネルは外販中心に稼ぐと言う選択肢はある。たとえば今期のシャープのテレビ事業のやり方がこれで、積極的な外販でフル操業を実現する堺・亀山(第2)工場と、値下げを抑えた液晶テレビの黒字とを両立している。いわばデバイスとしてのテレビ用パネル事業と、テレビ単体事業とを、上手く峻別したオペレーションが功を奏しているように見える。

パナソニックはあくまでも巨大なパネル設備は自社で消化させるものとして、13年3月期の薄型テレビの世界販売を09年3月期比3倍の3000万台にする、という拡大路線を突っ走るが、本当にこれがテレビ事業を収益化に導く正道なのか。パネル工場の高稼働率と、テレビ事業の黒字化を両立するもっと良い道はないのか。今改めて検討する必要がある。

(西澤 佑介=東洋経済オンライン)

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