赤字が止まらないパナソニックのテレビ事業に“黄信号”灯る

拡大
縮小

巨大工場の固定費と価格競争の板挟み


 低迷が色濃い背景には、2つのパナソニック固有の要因がある。第1は、あくまで数量拡大を追求する販売戦略である。

激しい価格競争に直面するテレビメーカーの意志決定はつねに、「数量よりも1台の利幅を重視する」か、「値引いてでも市場での存在感(シェア)を優先する」か、というトレードオフの中でせめぎ合う。今10年3月期は、シャープやソニーは前者寄りのスタンスをとり、年間の販売台数計画を前年並みと控えめに設定した。結果として世界市場のシェアは落としたものの価格下落を緩和でき、収益性は改善した。それとは対照的なスタンスをとったのがパナソニックだった。今期の薄型テレビ販売台数目標を前期比54%増の1550万台と強気に設定。実際4~12月までの結果は前年同期比47%増とほぼ筋書き通りの進捗だ。とりわけ商品点数拡充や販路拡大などに力を注いだ北米地域が2ケタの伸びを示し、北米市場シェアを08年末に比べて2ポイントも増加させた。

これは半面、何をもたらしたか。インターネット小売り大手「AMAZON・COM」の米国本家サイトを見れば明らかだ。ここでは、パナソニックの「ビエラ」が、信じられないような安値で売られている。新型の32型液晶テレビがなんと定価の約50%オフ、日本円換算に直すとざっと4万円で購入できる。「AMAZING VALUE(すごいお買い得だ)」「This TV Rocks(このテレビは私の心を震わせた)」。購入したアメリカ人の評価を見ると、誰もが手放しの喜びようだ。実際に同サイトのテレビの販売ランキングでも韓国勢と並び上位に食い込んでいるが、メーカーとしては喜んではいられないだろう。パナソニック全社ベースの数字を見ても、販売した薄型テレビの平均単価は前期と比べて3分の1も下落している。

もう1つの要因は巨額の設備投資負担だ。09年11月から、パナソニックは世界最大の生産能力をもつプラズマパネルの尼崎第3工場を稼働させた。27万平方メートルの延べ床面積に最先端設備を敷き詰め、高さ約2メートル、幅33.3メートルの超大型プラズマパネルを高速生産する同工場の総投資額は、2100億円。これに伴う減価償却費は大きく、テレビパネルの償却年数が一般に5年であることを考えると毎年420億円程度かかってくる計算となる。今年7月からは姫路で2350億円を投じた液晶テレビ用パネルの新工場が稼働し、2工場合わせた投資総額4500億円の償却負担が来11年3月期からフルにのしかかってくる。

赤字をもたらすこの2要因は、しかも相互に深く絡み合っている。販売数量を抑えれば工場の稼働損失として跳ね返り、かといって数量を追いかければ価格競争にのみ込まれる。「前門の虎」が数量追求による価格下落だとすれば、「後門の狼」は巨大なパネル工場の固定費負担--。パネル製造からテレビの組立までを一貫して自社製にこだわる “垂直統合型“の事業モデルが仇となったか、現在のパナソニックは、まさに袋小路にハマっているように見える。

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