権力者の監視「素人でもできる」調査法のリアル オンラインツールを使い、問題をあぶり出せる

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指先から始まるデジタル時代の調査報道スタイルが確立されてきている(写真:Jokic/iStock)

「これはフェイクニュースだ!」――。9月27日朝、トランプ大統領は自身のツイッターにそう投稿した。アメリカのニューヨーク・タイムズが、トランプ大統領の「税金逃れ」の特ダネを飛ばしたことに対するツイートである。

同紙によると、トランプ大統領は過去15年のうち10年間も所得税を納めておらず、さらに2016、2017年の連邦税納付額がそれぞれ750ドル(日本円で8万円程度)だったという。事実によって権力者の責任を問う調査報道のお手本のような報道だった。そんな本格的な調査報道がこれを読んでいるあなたにもできる可能性がある。それも、パソコンやスマホを使って指先1つから。デジタル時代の新しい調査報道の世界をのぞいてみよう。

調査報道の壁をテクノロジーで乗り越える

トランプ大統領の「税金逃れ」報道について、ニューヨーク・タイムズは9月27日付の記事で以下のように書いている。

「入手したすべての情報は、合法的にその情報を見る権利のある情報源から提供されたものだ。本紙は、これまで公にされていなかった情報を、公の情報ならびに過去の取材を通じて得た内部記録と照らし合わせた」

文面からは、このスクープを放つまでに気の遠くなるような裏付け作業があったことが想像できる。

敏腕記者たちが国家権力の中枢に入り込み、機密情報を入手し、時には命をかけて世の中に暴露する……。調査報道という言葉を聞くと、そんなイメージを抱く人がほとんどだろう。ハリウッド映画『スポットライト』(2015年)や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2018年)、そして近年話題となった邦画『新聞記者』(2019年)で描かれているような、記者vs.権力者の情報戦の世界である。

調査報道には大量のデータや資料の読み込み、独自の分析、慎重な裏付け取材などが必要であり、膨大な時間と労力、資金が要る。ジャーナリスト歴8年になる筆者(大矢英代)も含め、若手記者たちの多くが「調査報道は非常に難しく、情報提供者や機密情報へのアクセスなしにはできない高度な取材」といったイメージを抱きがちだ。したがって、トランプ大統領の税金逃れを暴くような調査報道記事が出るたびに、若手記者たちは「自分も」と奮い立つ半面、「何から始めていいのか」と戸惑う。

そんな“壁”を乗り越えるオンラインツールがあるという。今年9月下旬に開かれた「調査報道記者・編集者協会(IRE)」のオンライン国際会議で紹介されたのである。アメリカ大統領選が目前に迫る中、会議の関心は「選挙とカネ」に集まっていた。

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