権力者の監視「素人でもできる」調査法のリアル オンラインツールを使い、問題をあぶり出せる

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例えば、「スポケオ」を用いて、筆者が1年前に住んでいたカリフォルニア州の住宅の住所を調べると、航空写真に加え、家の間取り、建築年、ベッドルームの数まで正確に表示された。ほかの情報を調べても、その性能には驚くばかりだ。

ただ、取材には便利だが、個人情報がこれほど無防備に露呈されている状況に怖さを感じる人も少なくないだろう。それでも、そうした不安をよそに、指先から始まる取材手法はアメリカを中心に確実に広がってきた。少し前までオンラインでここまで情報収集できる時代が到来し、調査報道のデジタル時代が来ることを、典型的な調査報道記者でも想像できなかっただろう。

顔認識サイト「ピン・アイズ」で筆者の顔を読み込むと、オンライン上の写真がまとまって表示された

もちろん、情報収集に使えそうなツールはほかにもある。例えば、同じ国際会議で講演したイギリス・BBCで調査報道トレーナーを務めるポール・メイヤーさんは、自身のホームページで調査報道に活用できるオンラインツールを紹介している。

調査報道の未来とは

5日間にわたってオンラインで開かれたIRE調査報道国際会議。そこに参加した記者たちは口々に「今こそ、ジャーナリストの連帯を」と語った。

新型コロナウイルスの影響でオンライン取材が基本となった今こそ、世界中のジャーナリストがオンライン上で互いに調査方法や実例など学び、ジャーナリズムの発展のために力を合わせるときだ。そうやって「事実」を報道して各国市民に提示し続けないと、権力者の不正や不作為、圧政、戦争・紛争、気候変動、飢餓といったグローバルな共通課題はなかなか解決しない――。そんなメッセージが込められている。

中東諸国のジャーナリストを育成する非営利団体「調査報道ジャーナリズムのための中東記者の会(Arab Reporters for Investigative Journalism)」の編集長、ホダ・オスマンさんは、今、世界中の報道記者たちは「バーチャル・ラーニング革命」の真っただ中にいると言う。

「世界中の記者たちがパソコンの前で仕事をしている今こそ、国境や会社の枠を超えたコラボレーションの最大のチャンスです。ほかの国の報道から取材手法を学び取り、自分の国の報道にも応用することができる。例えば、新型コロナの問題を取材する場合、国内のみの情報を探すのではなく、国外にあふれるたくさんの情報に目を向けるべきです。地元、国内、グローバル。この3つのレベルでそれぞれいちばん信頼できる情報源を見つけ、それらを比較することが大切です。だからこそ、英語を学ばねばなりません。その分だけ、たくさんの情報にアクセスできるドアが開かれるでしょう」

取材:大矢英代=フロントラインプレス(Frontline Press)所属。アメリカ在住

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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