「鬼滅の刃」大ヒットの裏に飽きさせない神ワザ ビジネスにも応用できる「伝わる」力の3要素

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CutとDripによってテンポの良さを生み出しながら、『鬼滅の刃』にはしっかり「登場人物の気持ち」も描かれています。そのために多用されているのが、3つ目の要素「Emotion」、感情ツールです。

「鬼滅のCDE メソッド」3:Emotion (感情ツール)

重要人物が死んでしまう直前など、大事な場面では、必ず過去の「回想」が丹念に描かれています。「その人物がなぜ戦ってきたのか」「なぜ悪に手を染めるようになってしまったのか」など、肝になる動機を読者はその回想で深く理解することになります。

さらに、「モノローグ(独り語り)」も多用しています。一般的には、行動を通して心の内を描くのが漫画の醍醐味。文章で心の内を直接語ってしまうモノローグの多用は邪道という編集者もいます。ただ一方でモノローグは、登場人物の想いを端的に伝える格好のツールでもあります。

『鬼滅の刃』は登場人物の想いをわかりやすくするために、このモノローグを躊躇なく多用し、使いこなしているのです。

このように回想とモノローグといった感情ツールの多用により、物語の感動ポイントがわかりやすく伝わるようになっています。

ビジネスにも応用できる「鬼滅のCDEメソッド」

『鬼滅の刃』は「Cut」「Drip」「Emotion」という3つの要素により、テンポの良さと、濃密な人間ドラマ、という両立の難しいものをバランス良く詰め込むことに成功しています。

結果、見どころが満載でスピード感に溢れ、しかも、感情を揺り動かす作品となっています。だからこそ、コンテンツが溢れる時代においても多くの読者を飽きさせず、置いてきぼりにせず、ずっと離さないのです。

筆者は、この「鬼滅のCDEメソッド」はビジネスでも必須の能力だと考えています。情報が溢れ、常識さえも日々更新されている2020年代、「熱意だけで猪突猛進」というスタイルは時代遅れになっています。

非対面が増えていく営業や、ムダに長い会議の意味のなさなど、これまで以上に生産性を高めることに意識が向いている今、プレゼン1つとっても上司、同僚、取引先を飽きさせない、置いてきぼりにしない、離さないことがより重要になってきているように感じます。

スピーディーに伝えたいことを伝えつつ、相手の感情を揺り動かすメソッドが詰まった『鬼滅の刃』は、ビジネスにも通じる最高の教材なのです。

(漫画イラスト:光能 宝志、デザイン:さね吉)
 
光能 宝志 編集者、キャラクタープロデューサー

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みつのう たからし / Takarashi Mitsunou

大手出版社にて漫画編集、キャラクタービジネスに従事。芸能、スポーツ、政治関連のインタビューやエンタメ企業とのコラボ企画、IT企業と提携した新規事業の立ち上げ等も手掛ける。

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