テレビの「●時45分開始」番組への強烈な違和感 視聴者軽視のフライングで誰が得しているのか

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元をただせばフライングスタートは、「テレビをつけていることが前提」「ザッピングが好きな人向き」の戦略であり、新たな視聴者を増やすものではありません。ネットコンテンツが普及し、充実化される一方、テレビのHUT(総世帯視聴率)やPUT(総個人視聴率)は下がりがちなだけに、効果的な戦略とは言えないのです。

各局に求められているのは、「テレビ業界内で出し抜き合うのではなく、HUTやPUTを上げるために何をすればいいのかを考え、実践に移す」こと。少なくともネットコンテンツに大きく劣るユーザビリティの面では、「紳士協定を作って改善させる」くらいのことをやらなければ、使い勝手の悪い印象を覆すことはできないでしょう。

ドラマだけ「フライングなし」の理由

今秋で改編された以外の番組にも、“〇時57分スタート”“〇時58分スタート”などのフライングスタートは少なくありません。これら数分間のフライングは、「他局の番組が終わってCMに入ったタイミングでスタートさせて視聴者をつかもうとしている」だけの策であって、それ以外の大きな意味はありません。ならば、やはり今すぐにでも視聴者のためにやめたほうがいいでしょう。

ただ1つの例外はドラマ。ドラマは「冒頭の数分間を見逃すと、その後を見てもらうチャンスが激減してしまう」ため、大半の作品が“〇時ちょうどのスタート”なのです。

これは裏を返せば、「ドラマが“〇時ちょうどのスタート”にできるのなら、バラエティーや報道・情報番組もできる」ということ。テレビマンたちも実績で査定されるビジネスパーソンである以上、「0.1%でも高い視聴率を求めたい」という気持ちは理解できますが、“視聴者ファースト”の意識がなければ、よい結果が出たとしても長続きしないでしょう。

とりわけ今年度はコロナ禍で大幅な減収が避けられません。だからこそテレビ業界全体でHUTやPUTを増やす工夫を重ねることで、ダメージを軽減させたいところです。自局の利益だけを求めた“●時45分スタート”をやっている場合ではないでしょう。

テレビ業界が今なお、リアルタイムで見てもらうことが前提のビジネスモデルを変えられないのなら、せめて“視聴者ファースト”の観点から「主要番組はすべて〇時か、〇時30分ちょうどにスタートさせる」という最低限のベースを作り、各局はそれを順守していくことが望ましいでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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