ワクチン、作れても輸送が難しいという大問題 マイナス80度の超低温輸送をどう実現する?

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トランプ大統領は9月18日、具体的なワクチンの種類に言及しないまま、来年4月までにすべてのアメリカ国民を対象に数億回分のワクチンが利用可能になると主張した。政府の専門家が示しているのよりも野心的なスケジュールだ。アメリカ疾病対策センター(CDC)のロバート・レッドフィールド所長は16日の上院委員会で、来年の半ばより前にワクチンの一般接種が可能になることはないと述べている。

第3相臨床試験に進んだ3つのワクチンのうち、2つ(1つはモデルナとアメリカ国立衛生研究所が、もう1つはファイザーとドイツのビオンテックが共同開発中)は常に超低温に保たなければならない。そうしなければ構造が壊れる人工遺伝子で作られているためだ。一方、イギリスのアストラゼネカとオックスフォード大学が開発しているもう1つのワクチン候補の場合、冷蔵は必須であるものの冷凍の必要はない。

医薬品卸大手マッケソンは8月、コロナワクチンの配布で連邦政府と大口契約を結んだ。しかし輸送業務の大半を任されるのは、医療・医薬品業界以外の企業だ。UPSやフェデックスなどアメリカの大手物流会社はすでに冷凍物流のネットワークを有しており、生鮮食品や医療品の輸送に使っている。これらの物流企業は、季節性インフルエンザを含む他の感染症のワクチンを輸送した経験もある。

ところがコロナのワクチン接種は、過去に類を見ない規模となる可能性が高い。

UPSは氷点下の温度で数百万回分のワクチンを保管する冷蔵施設の建設を、同社最大の物流拠点ケンタッキー州ルイビルで進めているという。

一方、フェデックスでワクチン輸送の準備を取り仕切るのは、創業者フレッド・スミス氏の息子リチャード・スミス氏だ。アメリカ大陸で同社の航空貨物事業を統括するリチャード・スミス氏は、2009年の新型インフルエンザH1N1パンデミックの際、ライフサイエンス分野の航空貨物責任者だった。このときフェデックスはアメリカ政府からワクチン輸送で支援要請を受け、世界各地にある冷凍施設の能力を倍増させたと同氏は振り返る。

「幸い、H1N1のパンデミックは想定されたほどではなかった。が、おかげでコールドチェーン(冷凍・冷蔵物流)の基盤を強化することができた」とスミス氏。

ドライアイスが足りない

課題はまだある。コロナ禍の思わぬ「副作用」が顕在化し、ドライアイスが世界的に不足しつつあるからだ。

冷たい煙を発し、科学実験で子どもたちを夢中にさせるドライアイスは、二酸化炭素(炭酸ガス)を原料とする。その炭酸ガスは、エタノール製造時に副産物として生成されるが、エタノールの生産量はガソリン需要に応じて変動する。今年の春に自宅待機令が施行されると、自動車を運転する人が減少した。その結果、エタノール生産は低迷し、これと連動して炭酸ガスの供給量も落ち込んだ。

UPSとフェデックスは、自力での問題解決に乗り出した。フェデックスはドライアイス製造装置をすでに倉庫に配備、UPSも同様の装置の追加を検討中という。

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