大手商社が「サーモン養殖」に本腰を入れる理由 陸上養殖に続々参入、普及のカギは価格競争力

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丸紅のほか、三井物産が2017年、国内でのサーモンの大規模養殖に向けて取り組むベンチャー企業「FRDジャパン」に9億円を出資。伊藤忠商事はポーランドで陸上養殖を手掛けるピュアサーモングループの日本法人と、サーモンの国内販売で合意したと2019年7月に発表した。ピュアサーモングループは三重県に養殖場を建設し、2023年に出荷を開始する見通し。年間生産量は1万トンに及ぶ。

FRDジャパンは現在、千葉県木更津市で小規模な養殖場を運営しており、2019年6月から千葉県内のスーパーや飲食店に出荷を始めた。年間出荷量は約30トン程度にとどまるが、2021年度以降に年間1500トンを生産する養殖プラントを建設する計画だ。

普及のカギは「価格」

今後、国内で陸上養殖サーモンが普及するかどうかは、海で獲れた輸入サーモンと同等の価格を実現できるかがカギを握る。海面養殖に比べ、自由に設置できる陸上養殖場を国内に設けることができれば、鮮度や輸送コストの面でも有利になる。重要なのは生産施設を大規模化し、1プラント当たりの生産量を増やすことだ。

人工海水で満たされたタンク内でサーモンは育てられる(写真:丸紅)

また、環境負荷の低さを消費者に周知できるかもポイントになる。消費者の環境意識が高いヨーロッパでは、サステナブル認証のラベルがついた商品がごく身近なものとなっている。スーパーなどの小売店もサステナブル認証が付いた商品の販売に積極的だ。

丸紅は天然・養殖を問わずサーモンのトレーディングを長く手掛けてきた。アメリカ・アラスカにサーモンなどの生産・輸出を行う子会社を持つ。その丸紅が陸上養殖に積極的なのは、ヨーロッパ市場では環境に優しい水産物を高価格で売ることができるからだ。実際、DS社はASC認証(地域社会や環境負荷軽減に配慮して操業する養殖業に対する国際的な認証制度)を取得しており、「プレミアムを付けて販売している」(丸紅の中村部長)という。

FRDジャパンも2020年5月にASC認証を取得したが、日本の知名度はまだ高いとは言えない。FRDジャパンの十河哲朗COOは「小売業界内ではこうした認証を評価しようという考えが広がってきており、『ASC認証があるから取り扱いたい』という引き合いも複数受けるようになった」と話す。GMS(総合スーパー)最大手のイオンも、ASC認証の付いたサーモンを販売しており、サステナブル認証に対する企業や消費者の意識の高まりが注目される。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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