アート業界で「パワハラ」の告発が相次ぐ事情 不条理なほど大量の仕事を押し付けられる事も
アート界隈の「パワハラ」「セクハラ」に関する告発が相次いでいる。この夏には、美術集団「カオス*ラウンジ」代表で、美術家・批評家の黒瀬陽平さんが退社した件をめぐり、パワハラの被害者とされる女性がウェブ上で手記を公開する事態もあった。はたして、業界特有の問題があるのだろうか。文化・芸術分野に関する労働問題を調査してきた共立女子大学文芸学部教授で、社会学者の吉澤弥生さんに聞いた。
まさにブラックな業界だった
――これまでどんな労働問題を調査をしてきたのか?
およそ10年前から、公的な文化事業、文化施設もしくはアートプロジェクトに関わる人たちにインタビュー調査をしてきました。アーティストのほか、アートマネージャーやディレクターなどです。ギャラリーで展示して作品を売って生計を立てているような人ではなく、プロジェクト型の事業に携わる人たちです。海外の事例と比較しようと、イギリスで同様のインタビューをした時期もあります。
――どういうことがわかったのか?
まず、長時間労働と低賃金、残業代の不払いなど、まさにブラックな業界だということです。例えば、事務所や現場から家に仕事を持ち帰る人がたくさんいました。タイムカードがある職場でも、打刻時間と実態は一致していなかったり。時給計算すると、とても低くなります。週1日休めるかどうかの長時間労働なのに、月20万円いかない人も多くいました。
そもそも雇用されている人は施設勤務であることがほとんどで、雇用されていたとしても有期雇用です。ほかは多くが業務委託でした。社会保障も自己負担になりがちで、国民健康保険や年金を払えない人も少なくありません。
イギリスも状況は似ていましたが、そもそもの社会保障のあり方と、非正規やフリーランスといった流動性をキャリアアップの手段として前向きにとらえている点が日本とは違うなと思いました。政権も変わった今、状況はだいぶ異なるでしょうけれど。