アート業界で「パワハラ」の告発が相次ぐ事情 不条理なほど大量の仕事を押し付けられる事も

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――セクハラやパワハラは?

もちろんありました。パワハラでいえば、不条理なくらい大量の仕事を押し付けられ、できないことがあればそれを大声で叱責されるなどして、心身を壊した人もいました。

目に見えるパワハラだけではなく、"あの人からの仕事は断れない"というかたちで作用していることもあります。自分の受け取る対価が少なくても、事業費自体が少なく雇い主もたいしてもらっていないことがわかっているから申し立てない、という"思いやり合っている"ような状況もありました。

セクハラでいえば、トップの男性に気に入られた女性スタッフが酒の席で突然抱きつかれるなどの被害がありました。周囲の人に「嫌だ」「おかしい」と言ったけれど、「あの人はああいう人だから、我慢して」と言われてしまう。直接の被害だけでなく、周囲の無理解によって、二重の被害を受けるケースがありました。被害者は告発するリスクとコストと天秤にかけた結果、泣き寝入りすることが多いです。

"暮らしの中にアートが必要だ"と思われていない

ほかにも、ある非正規の職員が正社員の試験を受けようとしたところ、「ここは男性しか通らないよ」と言われるなど、証拠があるわけではないけれども、こうした意識が職員の間で共有されている。そして実際に男性しか正社員に受かっていないとなれば、受験を諦める非正規の女性職員も出てきます。こうしたジェンダートラック、また先のハラスメントを生み出す力関係は、芸術文化に限らないですが、構造的な問題です。

――構造的にブラックになるのはなぜ?

いくつかあります。1つは、仕事の評価や価値判断の基準がはっきりしないことです。そして、労働者としての地位が不安定であることです。さらにアート業界で付け加えるなら、「アートと労働を同列で語るのはおかしい」「好きでやっているから」「お金のためにやっているんじゃない」と、本人だけでなく社会も思っていることです。そのため、賃金や対価という発想が後手に回りがちなんです。

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