アート業界で「パワハラ」の告発が相次ぐ事情 不条理なほど大量の仕事を押し付けられる事も

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業界内の同調圧力もあると思いますよ。上の立場の人から「私は、あなたの立場のときに我慢してきたんだから、あなたも我慢しなさい」「修行中だから」「若いんだから」と言われてしまう。まさに"ブラックの再生産"ですね。このあたりは、アート業界に限らないと思いますが。

そもそも、美大の学生は女性が多く、教員は男性が圧倒的に多い。成功した男性の先生に認められないと上にあがれないような構造があります。これも搾取やハラスメント、人権侵害の温床でしょう。また、結婚・妊娠出産で女性がキャリアを中断しないといけないなど、一般社会と同じような"ガラスの天井"があります。それが嫌になってこの業界から離れた人はたくさんいると思います。

賃金や対価も低い

今回のコロナ禍では、文化・芸術に対して、これまでになく「自己責任」「不要不急」という冷たい言葉が露骨に向けられました。文化・芸術は趣味や余暇の延長、それらに携わる人は、好きなことをやっている人、変わっている人というイメージを持たれている。"アートは社会のインフラとして必要だ"という意識が諸外国にくらべて低い。こうしたところが、賃金や対価が低いことにもつながっていると思います。

――日本で"インフラ"という意識がないのは?

日本ではまだ、"アートは西洋からの借り物"なのではないでしょうか。明治時代に西洋にならって「官」が美術館をつくったりしましたが、それは美術を鑑賞できる教養のある人たちのためのもので、現在にいたるまで一般の人々の暮らしとは乖離している。自分たちの生活とはあまり関係ないけれど、美しく、価値があるとされているもの、というイメージでしょうか。"暮らしの中にアートがある"とか"必要だ"と感じるような機会があまりないのでは。

――そもそもアートが必要なのはなぜか?

やはり「表現の自由」だと思います。アートはどんなかたちであっても、「個人の価値観の表現」であるので、それが多様に存在している社会は民主的だと思います。

日本だと「アート=美しいもの」と思われがちですが、政治課題や社会問題を問うものなど多様化しています。私自身、アートを通して今まで考えることのなかった歴史や政治、文化の問題を考えることになりましたし、そうしたテーマに対するそれぞれの感想や意見も、個々人に委ねられている。その先は一つひとつ考えたり話し合っていくしかないんですが、そういうプロセスを含めて民主主義なのだろうと。

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