アメリカが直面する雇用対策のジレンマ--ブラッド・デロング カリフォルニア大学バークレー校教授
しかし、民主党と共和党の対立で機能不全に陥っている上院は、3年間の赤字歳出の上限を6000億ドルに設定している。これは政府が目標とする1・2兆ドルの半分でしかない。
しかも、ここに来てFRBは非常に慎重な姿勢になっている。今までのように市場で債券などを購入し続けるのをやめ、バランスシートの総額が2兆ドルを超えることを避けようとしている。FRBは財務省から資金を得て、また財務省の指示に従って大規模な市場介入を行ってきた。しかし、市場への巨額の流動性の供給も具体的な雇用創出効果を発揮するほどではなかった。
オバマ政権が打ち出した五つの政策のうち成功を収めたのは、おそらく半分程度であろう。そして経済危機が2008年末に予想されたよりもはるかに深刻になったため、オバマ政権の景気政策では、失業率を10%以下に維持することはできなかった。
こうした背景により、現在のような雇用情勢がもたらされたのだ。失業率は許容範囲を越えて、下落する気配さえ見られない。悪化する雇用情勢を踏まえ、政策の焦点は需要を拡大する景気刺激策から、政府が直接雇用を増やす政策へとシフトしつつある(ただ、こうした議論の中で、直接雇用を増やす政策が財とサービスの生産量を持続的に増やすのに効率的かどうかについては、あまり議論されていない)。
政府の直接雇用か企業への大減税か
実務上、こうした雇用政策は、「政府が人々を直接採用する」か「企業が雇用を拡大するように大規模な減税を行う」かのいずれかを意味している。
今年の末までに失業を減らすために、歳出の多くを雇用創出プロジェクトに振り分けるよう方向転換する時間的な余裕はある(そうして創出された雇用の付加価値は低くなるおそれはあるが)。ただ、その場合には、議会が迅速に行動をとることが前提である。