薬の開発審査に関与する医薬品医療機器総合機構(PMDA)は9月2日、新型コロナワクチンの開発・承認に関する見解を公表した。海外で大規模治験が実施されている場合も「国内での臨床試験を実施する必要がある」との原則を掲げている。
これを厳格に適用すれば、アメリカで生煮え状態で承認された薬が輸入されても、そのワクチンを日本で承認されることはない。ただ、PMDAのこの原則を貫くことができるのか、実際の運用をみてみないと未知数なのが実情だ。
立ち遅れる日本のワクチン開発
一方、日本のコロナワクチン開発は立ち遅れている。
国内で最も先行する大阪大学の森下竜一寄付講座教授と大阪大発ベンチャーのアンジェスによる共同開発でも、6月末から少数被験者を対象にした初期治験(P1/2)に入った状態だ。初期治験の結果が良ければ、10月にも400~500人を対象にした次の試験段階に移る計画だが、日本で臨床試験第3相に移行するなら、最低でも数千人規模の被験者を対象にした試験を実施し、有効性と安全性を担保できるデータを出す必要がある。
新型コロナのワクチンでは、メッセンジャーRNAなどの遺伝子情報を利用する新たな技術も登場しているが、新技術に基づいて開発されたワクチンで承認された例はまだ存在しない。副作用のリスクを避けるため、幅広い年令層や疾病歴など多様なバックグラウンドを持つ人を対象に、ある程度の期間をとって治験をすることが望ましいのはいうまでもない。
実際、9月8日にはアストラゼネカがイギリスで行っている治験で、原因不明の重篤副反応が1人の患者で発生したため、世界中の治験が中断された。その後イギリスでは治験が再開されたが、アメリカなどでは中断したまま。アンジェスの治験でも、数千人規模を対象にした最終試験が要求されるとみるのが妥当だろう。
そうなると、最終試験入りは早くて2021年で、承認時期ともなれば2021年の春以降だろう。その際に日本で新型コロナ感染が拡がらなければ、プラセボワクチンの接種を受ける被験者群の感染が進まない可能性もあり、国内での最終試験を実施すること自体が難しくなるかもしれない。
この秋冬に日本も含めて世界的に新型コロナウイルスがもう一段猛威を振るうようになった場合、国産ワクチンを持たない日本が海外製ワクチンを使わずにいられるのか。「海外に乗り遅れるな」式の政治的な動きが日本でも出てこないとも限らない。
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