菅政権の「勘違い」が地銀を殺しかねない理由 銀行が抱える問題は「多すぎる」ことではない

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さらに悪いことに、1990年代の財務省による「返済一次猶予」の繰り返しのように見える措置として、金融庁は地銀に対し、見かけの利益を膨らませることを許可してきた。貸倒引当金をほとんど積まなくても許される状況を許してきたのだ。

2000年には引当金は融資額の3.3%あったが、2020年初頭までにはわずか0.5%になっている。引当金は借り手が債務不履行を起こした際に損金処理される。引当金は利益から差し引かれるため、それらを積まずに済むようになることで、見かけの利益と蓄積された資本を、適切な引当金が積まれている場合よりも多く見せることができる。

日銀と金融庁は、景気がいいときには債務不履行が起こることは少ないため、引当金はほとんど無視しても構わないと主張する。しかし貸倒引当金の本質は、景気が悪化した際の安全クッションを持つことである。コロナの影響を受けた後でこれがどれくらい上手く機能するかは、現時点ではまだわからない。

時代遅れのビジネスモデルの大問題

こうしたすべての証拠にもかかわらず、菅首相は最大の問題は銀行が多すぎることであり、合併によって運営コストが下がるだろうと主張する。確かに、改善されるべき非効率性はたくさん存在するし、ネットバンキングの時代に適応する必要性もある。

だが、それが地銀の最大の問題とは思えない。過去10年において銀行は、人件費やその他の基本コストを7%減らしてきた一方で、融資残高と預金を44%増やしてきた。1990年代から2000年代にかけての銀行危機時、支店と行員両方の数を大幅に削減結果、日本は典型的な裕福な国よりも人口1人あたりの銀行支店数が3分の1少ない。

つまり、銀行はコスト削減の必要性を認識しており、さらなる人員削減にすでに着手しているものの、それで十分とは言い難い。菅首相が強調していることは、日本であまりに頻繁に見られたパターンの繰り返しのように見える。経営が傾いた2社か3社の企業を合併させれば、基本的なビジネスモデルを変えなくても、健全な企業が生まれるという幻想だ。ジャパンディスプレイはこの幻想の結果の好例だ。時代遅れのビジネスモデルは、膨大な経営コストよりはるかにたちが悪い。

小泉純一郎政権下で金融担当相を務め、金融再生プログラムを主導した竹中氏も、現在の銀行には根本的な問題があると指摘する。「銀行のビジネスモデルは時代錯誤。銀行は預金を増やすことに力を入れている一方で、集めた預金を管理しようという発想がない。競争がほぼないこともあって、こうした状況を改善しようという努力も行っていない。今の状況は低金利政策と新型コロナによって一段と悪化することは避けられない」と見る。

こうした中、同氏は島根銀行によるSBIとの提携が「預金を管理する能力を向上した」として、「他業種と協業すること」が銀行を再活性化する1つの手段となりうると話す。ただしこうした過程で「多くの地銀が淘汰されるのではないか」と竹中氏は予想している。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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