菅政権の「勘違い」が地銀を殺しかねない理由 銀行が抱える問題は「多すぎる」ことではない

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地方銀行は全銀行融資の約半数を占めている。超低金利がマクロ経済に対してどのようなメリットがあるとしても、代償が伴う。その代償はメリットよりも小さいとはいえ、やはり対処が必要である。その対処はまだなされていない。

相当ゾンビ化した企業でさえ、0.25%という水準であれば融資を受けるほど信用力があるという錯覚を起こさせることができてしまう。5000万円の融資にかかる利子は、1年でわずか12万5000円である。

日銀の政策が地銀を弱体化させた

コロナによる景気低迷に対して最も脆弱かつ不安定な何万という銀行が目下、人為的にテコ入れされている。多くの政治家は銀行に大幅な人員削減を求めている一方で、営業停止やその結果として起こる失業を防ぐため、こうした銀行に対して利益の出ない利率で信用力のない企業に融資をするよう圧力をかけてきた。

こうした動きは長期的な経済成長の可能性の足を引っ張るだけでなく、コロナが借り手を追い詰めるにつれ、地銀の不良債権処理が急増することも意味する。5月時点で銀行は今会計年度の不良債権コストが2倍になるかもしれないと予測しているが、どれほど悪化するか判断するにはまったく時期尚早である。

コロナはきっかけかもしれないが、根本的な原因ではない。銀行を弱体化させてきた、何年にもわたる腐食があらわになっているだけである。投資家のウォーレン・バフェットに言わせれば、「潮が引いて初めて、誰が裸で泳いでいたかがわかる」ということだ。

根本的な脆弱性は、何年にもわたって日銀の政策が地銀の利益を消滅させ、そのバランスシートを弱体化させてきたことである。2000年代初頭までさかのぼると、銀行の中核的な利益の源、つまり融資に課す金利と預金者に支払う金利の差は約2%だった。それが2010年までに1.6%、そして2016年までには1.2%に落ち込んだ。2020年度前半にはついに、わずか1.15%にまで縮小している。

この金利差は非常に薄く、2015年度までに地銀は中核事業において総額1000億円程度の損失を被っている。そしてこれは、2020年度前半までに年換算で1340億円まで膨らんでいる。

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