エヌビディア、4.2兆円買収で狙う覇者の地位 ソフトバンクGから半導体設計アームを買収

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今回のアーム買収によって顧客の幅を広げ、エヌビディアはAI時代の「半導体の覇者」を目指す。今後、あらゆるものがインターネットにつながるIoT時代が進めば、ウェアラブル端末にもAIが搭載されていく。各社ともそこに商機を見いだしており、ソニーはイメージセンサーにAI機能を搭載した新製品を5月に発表した。

9月14日に記者会見したエヌビディアのフアンCEOは、「エヌビディアの強みをアームのエコシステムへ拡大することができる」と話した。アームがもつ幅広い顧客とのつながりを生かし、エヌビディアのGPUを売り出していくことを考えているようだ。

エヌビディアによる買収に懸念も

ただ、こうした動きには懸念もある。アームはあくまで基本設計だけを提供することで取引先を広げることができた側面もあるからだ。アームの顧客である半導体メーカーにとっては、エヌビディアはいわば競争相手。競争上不利になることを嫌い、アーム以外の基本設計を利用する動きが広がりかねない。

エヌビディアのフアンCEOは「アームにとって重要なことはオープンで公正なこと」と語る(撮影:梅谷秀司)

フアンCEOは「アームにとって重要なことはオープンで公正であること」と語り、今回の買収によって競争環境が変わることはないことを強調した。買収と同時に、アームの本社があるイギリス・ケンブリッジにAI研究のための研究拠点を設立すると発表。アームに対する配慮がにじんだ。

各国の独禁法当局による審査がスムーズにいくかも不透明だ。18カ月という長期にわたる買収完了までの期間がさらに延びたり、手続きが中止になったりする可能性もある。

アーム本社のあるイギリスではエヌビディアの買収に対する反対論も起こっている。共同創業者の1人がアームの独立性を求めて公開書簡を出しているのだ。ただ、アームの事業には継続的に研究開発費をかける必要がある割に、売り上げ規模が大きくない。半導体産業のインフラ的な技術だけに値上げは容易ではなく、大資本の傘下で技術開発に磨きをかけたほうがいいという見方が優勢だ。

2020年3月期のアームの売上高は2066億円。営業利益は428億円の赤字だ。実は、SBGが2016年に買収して以降、中国事業の合弁化に伴う一時利益などを差し引けば、アームは利益をほとんど生み出してこなかった。エヌビディアがアーム買収に投じる約4兆2000億円に見合う価値を生み出せるのか。もし結果を出せなければ、それはエヌビディアの株主であるSBGにも跳ね返ることになる。

半導体業界では過去、大型買収が当局による認可を得られず、幾度となく断念に追い込まれてきた。今回のエヌビディアによる買収について、アームと取引のある半導体企業の幹部は「もう少しことの成り行きを見定める必要がある」と話す。4兆円超の巨額買収劇が半導体業界にどのような地殻変動をもたらすか、目が離せない状況が続く。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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