突如「平和外交」に舵を切ったトランプの思惑 ノーベル賞候補に推薦されて大喜びしているが
15日にはトランプ氏が主催する形で、イスラエルとUAE、バーレーンの国交正常化の署名式が同時に行われる。12日にはポンペオ国務長官立ち会いの下、アフガニスタンの和平協議が開始され、19年にわたる紛争終結の機運はこれまでになく高まっている。4日にはコソボとセルビアの両首脳がホワイトハウスを訪れ、経済関係の正常化を発表した。これは何十年にわたる敵対関係の終焉に役立つかもしれない。トランプ氏はまた、アフガンとイラクからの米軍撤退も進めている。
民主党系の世論調査専門家で、国家安全保障に詳しいジェレミー・ロズナー氏は、10月にオスロのノーベル賞委員会から驚きのニュースが飛び出す展開はまったく想定していないという。
「まかり間違っても、そんなことは起こらない」とロズナー氏。同士によれば、この平和路線で無党派層がトランプ支持に傾くことはない。民主党予備選でサンダース上院議員(バーモント州選出)を支持した反戦活動家となれば、なおさらだ。
「今回の大統領選挙では、国家安全保障政策の重要性はあまり高くない。こういった話題には外交の専門家以外、誰も関心を持たない」(ロズナー氏)。外交政策に関する限りトランプ氏と民主党の大統領候補バイデン前副大統領の選挙戦は引き分けに近い、とロズナー氏は話す。
ファストフードのようなトランプ外交
またトランプ政権は平和外交の功績を高らかに宣伝しているが、実際の成果は相当に割り引いて考える必要がある。トランプ政権は中東で歴史的な国交正常化を成し遂げたと声高に主張している。
しかしイスラエルはUAE、バーレーンと紛争状態にあったわけではない。これらの国々が以前から何年もかけて静かに発展させてきた友好関係が、今回の国交正常化で公式に宣言されたに過ぎない、とリベラル系のシンクタンク、アメリカ進歩センターのブライアン・カトゥーリス上級研究員は指摘する。同氏に言わせれば、トランプ氏は「(コケコッコーと鳴いて)夜明けが訪れたのを自分の手柄にする鶏」のようなものだ。
トランプ氏が今月、セルビアとコソボの首脳をホワイトハウスに招き、両国の友好的共存の第一歩とするべく経済関係正常化の合意文書署名式を行ったとき、トランプ氏の娘婿のクシュナー大統領上級顧問は祝賀的な記者会見で、これを「歴史的合意」と呼んだ。
しかし、アメリカの元職業外交官クリストファー・ヒル氏は、バルカン半島におけるトランプ政権の仲介努力を「マクディプロマシー」と一蹴する。ファーストフードのようなお手軽外交で、持続的な成果に欠かせない「真剣な仕事ぶり」が見られない、というのである。ヒル氏は、アメリカの仲介で同地域におけるボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を終結させた1995年のデイトン合意実現に尽力した。