日本人の知らない旧満州「9.18」反日施設の実態 その建物には「勿忘"九・一八"」と記されていた

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そこから順路に沿って進むと、いかに日本が中国東北部の人々を虐げ、略奪し、植民地支配を進めてきたか、教えられる。

例えば「教育」について資料を陳列した場所には、説明に日本語でこうある。

<植民地支配を一層強化するために、日「満」は“日満一徳一心”“五族協和”などのいわゆる建国精神を大宣伝し、日本語を国語と定め、奴隷化教育を強制的に推進して、東北人民、特に青少年の民族意識を滅ぼし、彼らを日本植民地支配の忠実な従僕に育てあげようとした。>

ほかにも「宗教」の解説。

<偽満皇帝溥儀はさらに、自ら日本に赴き、日本を象徴する“肇国の祖”である“天照大神”を偽満皇宮に招きいれ、それを“建国元神”として祭り、また東北人民に信奉・礼拝するよう強制した。東北人民は民族と祖先を失うという辱めを被った。>

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「白色恐怖」について説明しているコーナー(写真:筆者撮影)

それに見合った資料や写真が並べてある。

また、「白色恐怖」というコーナーでは、こう説明している。

<東北の人民には人身の自由と言論の自由は全くなく、少しのことにも嫌疑をかけられ、逮捕監禁されることになり、いわゆる“思想矯正”を受けたり、さらには殺害さえされた。銃剣が支配する東北の大地は極度の白色テロにさらされた。>

これをすべて日本がやったことだと強調して、敵視するように「忘れる勿れ」としている。その象徴が「9・18」なのだ。

現代中国の"映し鏡"という皮肉

しかしながら、ここに書かれていることは、まさに今、中国共産党が新疆ウイグル自治区で行っていることに当てはまる。そう思えるのは私だけだろうか。

一国二制度を約束していた香港も、国家安全維持法が6月末の成立施行と同時に、瞬く間にのみ込んでしまった。今の香港に言論の自由はあるだろうか。

日本侵略博物館の入り口ロビー(写真:筆者撮影)

4月には、かねて埋め立て、軍事拠点化してきた南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島、西沙(パラセル)諸島を、新たな行政区「南沙区」「西沙区」としたことにも、「侵略・占領」という言葉が当てはまる。

それでも、この展示を私が1人で観て歩いたときのことだ。日本人に気づいた閲覧客の視線がだんだんと冷ややかになっていくのがわかった。私の姿を見た子どもは、親に寄り添って何事かをささやく。まるでこちらを蔑視するように、視線は逸らさない。

「日本人がいる……」

そうささやいていたのだろう。

そういう国を日本は相手にしているのだ。そんな国が今、アメリカと世界の覇権を争っている。そのことを忘れてはならない。(一部敬称略)

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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