ある朝、精神病院に強制連行された男の凶体験 「まるでSF小説」が蔓延する精神科移送業の実態

✎ 1〜 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「車中では5時間半の間、ジャンパー姿の屈強な男たちに囲まれて連れていかれた。パーキングエリアでトイレ休憩した際も、自分だけは外出が許されず尿瓶の利用を強要された」(Bさん)

結局Bさんは、自宅から遠く離れた栃木県宇都宮市内の精神科病院で1カ月強の入院を余儀なくされた。

Bさん同様、遠方からの「患者」を多数受け入れている、この宇都宮市内の精神科病院で起きていることについては、今後の連載で取り上げる予定だ。

「精神科病院に入院させてしまえば、肩代わりした事業資金のこともうやむやにできるとでも考えたのだろう。それにしても、本当に認知症で大変なら妻から病院に相談があるはず。それにまったく取り合わず、一緒に住んでもいない長男の言い分のみで、こんな拉致・監禁がまかり通るとは」(Bさん)

その後、長男とは再度、音信不通状態だという。

難しい責任追及

実際、こうした精神科移送業者の行為に対し、賠償責任が認められたケースもある。2013年、大阪地方裁判所は離婚訴訟を有利に進めるために、医師に虚偽の説明をして元妻を精神科病院に強制入院させた元夫に損害賠償の支払いを命じた。同時に元妻の意に反する移送をしたうえ、加療を要する傷害を負わせたとして、移送業者も損害賠償責任を負うとした。

だが、精神科移送業者が表立って責任を問われることは極めてまれだ。こうした相談を何件も受けたことがあるという、内田明弁護士は「通常は被害にあっても業者すら特定できないケースがほとんどで、証拠が乏しく責任追及することは現実的には難しい」と話す。

冒頭のAさんの言葉を借りれば、「まるでSF小説のような出来事」がまかり通っているのが、現代日本の精神医療の現実だ。

(第5回に続く)

本連載「精神医療を問う」では、精神医療に関する情報提供をお待ちしております。お心当たりのある方は、こちらのフォームよりご記入をお願いいたします。
風間 直樹 東洋経済コラムニスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事