ある朝、精神病院に強制連行された男の凶体験 「まるでSF小説」が蔓延する精神科移送業の実態

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連れて行かれた精神科病院でのAさんのカルテには、この業者のことを「民間救急」「民救」と表現していた。本連載の第3回「夫の策略で『強制入院3カ月』妻が味わった悪夢」(2020年4月1日配信)でも触れたが精神科病院への移送を担うこれらの業者は、いったい何者なのだろうか。

精神科特有の強制入院の1つ「医療保護入院」(同制度については、連載第2回「精神病院から出られない医療保護入院の深い闇」【2020年3月1日配信】で詳報)のための患者の移送については、1999年の精神保健福祉法の改正で、都道府県知事が公的責任において行う制度が新設された。Aさんのように家族等の依頼を受けた民間警備会社が強制的に行うなど、人権上問題視される事例が発生していたためだ。

ところが、この公的移送制度は活用されていない。厚生労働省の調査によれば、施行された2000年度から2014年度までの15年間で、公的移送件数は1260件にとどまっている。年間18万件を超える医療保護入院の届出数(2018年度)からすると、ほとんど機能していない。

厚労省は実績の少ない理由として、適用の判断の難しさ、実施体制の確保の難しさなどを挙げるが、移送の実行までに自治体による事前調査や精神保健指定医の診察を要するなど、要は入院をさせたい側にとって使い勝手が悪いためだ。

その結果、法改正で排除を狙ったはずの警備会社などの民間移送業者が、今も精神科病院への移送のメインプレーヤーとして利用されている。

移送の中心担うのは警察官OB

「自分が行った精神科病院への移送のうち、明らかに精神疾患のある方は2割ぐらいで、あとは何らかの家族内でのトラブルが原因のように感じられた」

元警備会社勤務の40代の男性はそう振り返る。男性は10年間でおよそ200人の移送を経験した。案件の内容によって3~5人でチームを組み、同社ではチームのリーダーは警察OBが担うことがほとんどだったという。

「精神科への移送業務には、警察官のノウハウが満載だ。移送は決まって早朝に行われたが、抵抗されにくい寝起きを狙うのは警察のガサ(家宅捜索)と一緒。硬軟織り交ぜて説得するのも取り調べ経験からお手の物だし、元警察官2人に両脇を抱えられたら身動きが取れないのも当然だ」(男性)

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