バイデンのアメリカは経済政策も「左傾化」へ 選挙後は民主党内で急進左派の発言力高まる

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ただ、水面下では急進左派と穏健派の亀裂はいまだ大きく、大統領選後、その亀裂は一気に浮き彫りとなるであろう。民主党全国大会の後、サンダース氏は「大統領選でバイデン氏が当選した翌日、この国の将来についてわれわれは真剣に議論することになる」と語っている。トランプ退陣が決まれば、急進左派は自らの政策推進に向けて動きを活発化させる見通しだ。

今夏、民主党予備選では相次いで急進左派の候補が、穏健派を破るといった現象が見られた。9月1日、ケネディ元大統領の弟であるロバート・ケネディ元司法長官の孫ジョセフ・ケネディ下院議員がマサチューセッツ州上院選の民主党予備選で、AOCなど急進左派の後押しで支持が高まった現職のエドワード・マーキー上院議員に大差で敗れた。ケネディ家が牙城である同州の連邦議会選挙で負けたのは初めてのことであった。ケネディのブランド力でも阻止できなかった今日の急進左派の勢いは下院ではさらに凄まじい。

ニューヨーク州の予備選挙では元中学校校長の急進左派ジャマール・ボウマン候補が現職で下院外交委員長を務める民主党重鎮エリオット・エンゲル議員に勝利。また、ミズーリ州では急進左派の活動家コリ・ブッシュ候補も、現在10期目を務めているウィリアム・レイシー・クレイ下院議員を破った。

近年、右派では共和党保守強硬派「フリーダムコーカス」がアメリカ議会の政策を振り回してきた。次期議会でより多く当選が見込まれる急進左派の下院議員が、各種団体の資金力に支えられて「フリーダムコーカス」の左派版を創設し、議会アジェンダを左右する可能性もでてきている。バイデン政権発足後、民主党内でこれら急進左派と穏健派が衝突し内戦が繰り広げられることは必至である。

急進左派に押され、「新ニューディール政策」へ

バイデン氏は民主党全国大会での指名受諾演説で、①コロナ、②不景気、③人種問題、④気候変動の4つの危機について語り、2021年に政権が発足した暁には、最重要課題としてこれらに取り組むとした。

バイデン氏の副大統領首席経済顧問を務め、現在、同氏に経済政策を助言しているジャレッド・バーンスタイン氏は、バイデン政権で国家経済会議(NEC)委員長もしくは財務長官に就任すると噂されている。そのバーンスタイン氏は、「バイデン氏はフランクリン・D・ルーズベルト(FDR)大統領(1933~45年)のように構造改革の必要性を理解している」と話す。

バーニー・サンダース上院議員も、NBCニュースに対し「タスクフォースの提案が実行されれば、バイデン氏はFDR以来、最も急進左派の大統領となる。今日、われわれはそれを必要としている」と語っている。

FDRは急進左派が称賛する大統領であるものの、つねに左派のイデオロギーに固執していたわけではなかった。だが、FDRは大恐慌後のニューディール政策で社会保障、失業保険など今日も政府の役割として重視されている改革を実現した。バイデン氏もカマラ・ハリス副大統領候補も、FDR同様に、その時代の主流の政策に合わせてきた政治家で、民主党穏健派のイデオロギーにこだわらないであろう。

また、FDR政権発足時と同じく、今のアメリカもさまざまな危機的事態に直面していることからも、バイデン氏が政権発足時に急進左派などが求める大胆な社会経済政策、いわゆる「新ニューディール政策」を導入しやすい環境にあるといえよう。

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