バイデンのアメリカは経済政策も「左傾化」へ 選挙後は民主党内で急進左派の発言力高まる

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バイデン政権が「新ニューディール政策」を打ち出すことはできても、大統領権限で実行できることは限られる。したがって、議会の協力がなければ大幅な改革は難しい。そこで立ちはだかるのは議会が膠着状態となっている最大の要因でもある上院の壁だ。上院ではフィリバスター(議事妨害)によって法案可決に必要となる60票が確保できず、「新ニューディール」のような法案、つまり超党派ではなく急進左派が推進するものは廃案となる運命にある。

しかし、上院選の結果次第では、その状況が一変する可能性が出てきている。直近の世論調査からも、11月の大統領選・連邦議会選では「ブルーウェーブ(民主党のシンボルカラーである青の波)」が押し寄せ、共和党はホワイトハウスだけでなく、上院も民主党に奪われる可能性がわずかながら浮上している。大統領府、上下両院の3つ全てを握る「トライフェクタ(三冠)」は、民主党にとってはオバマ大統領初当選時の第111議会(2009~2011年)以来となる。

バイデン政権では発足当初は共和党との妥協策を探り超党派の政策実現を目指すであろう。だが、急進左派からの突き上げ、そして共和党からの反発によって妥協策を見出すのは極めて困難であるのは目に見えている。要するにバイデン政権は急進左派と共和党の板挟みとなる中、左傾化する民主党アジェンダを優先するであろう。さもなければ急進左派が2024年にバイデン-ハリス陣営への対抗馬を予備選で擁立するからだ。

経済政策まで左傾化したことはなかったが…

結局、バイデン大統領の後押しにより、民主党主導の上院はフィリバスターを過半数の議員の合意のもと実質的に廃止する可能性がある。ブルーウェーブが到来して民主党が上院で53議席あるいは54議席以上獲得すれば、フィリバスター廃止の機運が高まるであろう。

それにより、急進左派が提唱してきた「グリーンニューディール」、「国民皆保険制度(メディケアフォーオール)」、公立大学の学費無償化、所得税や法人税の大幅引き上げなどによる所得格差是正、銃規制強化などの実現に向けて動き出し、バイデン政権の政策は、バイデン氏の今の政策綱領よりも左に急転回するかもしれない。

アメリカ産業界はブルーウェーブによって、急進左派の政策が導入されビジネスに影響が及ぶリスクに警戒し始めている。歴代の民主党大統領は、社会政策で左にシフトしたとしても、経済政策で産業界の反感を買うような過激な政策を導入することは、ほとんどなかった。

だが、バイデン政権下、上院選の結果次第ではあるものの、とうとう経済政策でも大幅に左傾化するリスクが出てきた。トランプ大統領と共和党が喧伝しているような、アメリカが社会主義のベネズエラやキューバのような国になるリスクは、もちろんない。だが、バイデン政権下、左傾化は避けられない。政権発足後の政策を占う上での注目点は、バイデン氏が組閣で経済政策の重要ポストに急進左派を配置するかどうかだ。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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