30万円で「民泊事業」を買った人の偽らざる本音 コロナ禍で逆風なのに、個人M&A戦線に異常あり

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『週刊東洋経済』は9月7日発売号で、「トクする事業承継 M&A」を特集。中小企業の事業承継の現状とともに、M&Aの主要マッチングサイトの特徴や個人M&Aの実例を紹介している。

寺田さんと同じく、6月に東京・渋谷の民泊事業を買収したのが、山下一郎さん(仮名・40代)だ。もともと会社勤務の傍ら不動産投資を手がけ、民泊事業にも興味を持っていた。参入のタイミングを見極めていたところ、新型コロナ禍で民泊事業の売却価格が急落。「まさにバーゲンセール。『今だ』と思って買収に踏み切った」(山下さん)。

山下さんにとって、民泊事業買収は「賭け」だったという。「今後コロナ禍が収束し、東京五輪が来年開催されて外国人客が戻れば、収益は上がる。それがなければ損をする」(山下さん)。わかりやすい“勝負”である。

リスクは織り込み済み

買収価格は40万円。加えて月々の家賃が約10万円発生する。寺田さんは「買収価格に特にこだわりはなかった」と振り返る。

「本来M&Aは、専門家に頼んでデューデリジェンス(資産査定)をしたうえで買収価格を決めるのが一般的。しかし、個人が数十万円で買うような事業にデューデリジェンスを頼むと割が合わない。そもそも低価格の売却案件は決算資料がそろっていないケースも多く、バリュエーション(事業価値評価)が難しい。リスクはあると織り込んだうえで勝負するしかない」(山下さん)

リスクを織り込んで勝負するなら、コロナ禍で価格が急落した今夏こそが、山下さんにとっては“勝負のタイミング”だった。「あとは外国人客が戻るかどうかで、明暗は分かれる」(山下さん)と、来年の東京五輪開催に運を託す。

M&Aマッチングサイトの普及とともに広がってきた個人M&A。これまでは個人がもともとやりたかった飲食店や学習塾などを買収し、“脱サラ”に踏み切るようなケースが目立った。しかし、コロナ下で価格が急落した上記の民泊事業の買い手のように、副業で経営の経験を積んだり、「勝負事」として買収に踏み切ったりと、そのスタイルも多様化している。

個人によるM&Aはさらに定着するのか。上記のような多様な目的での事業買収の成果が、その帰結を左右しそうだ。

『週刊東洋経済』9月12日号(9月7日発売)の特集は、「得する事業承継 M&A」です。
許斐 健太 『会社四季報 業界地図』 編集長

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このみ けんた / Kenta Konomi

慶応義塾大学卒業後、PHP研究所を経て東洋経済新報社に入社。電機業界担当記者や『業界地図』編集長を経て、『週刊東洋経済』副編集長として『「食える子」を育てる』『ライフ・シフト実践編』などを担当。2021年秋リリースの「業界地図デジタル」プロジェクトマネジャー、2022年秋より「業界地図」編集長を兼務。

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