リニア提訴を前に露呈、静岡県の不都合な真実 県の専門部会委員が訴訟準備勉強会の講師に

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もっと驚かされたのは、川勝知事の「手記」である。8月12日から14日まで3回にわたって、「手記」を朝日新聞静岡地方版に連載した。連載の3回目では、新型コロナを経験している現実を踏まえ、リニアに対する6つの疑問点を書いた。

(1)コロナ禍問題は「東京問題」であり、東京一極集中からICT(情報通信技術)を活用する地方への多極分散が望ましい。いまや「スーパー・メガリージョン(リニアが約1時間で結ぶ京浜・中京・阪神の7000万人巨大都市圏)」は必要ない。
(2)リニアのトンネル工事は南アルプスの自然環境破壊であり、リニアを取るのか、南アルプスを取るのかならば、「南アルプス」を優先すべき。
(3)リニアの電力源は原発を前提にしているが、福島第一原発事故などで原発依存モデルは崩壊した。リニアの莫大な電力源は確保できるのか?
(4)「南アルプストンネル」避難路の出口は南アルプス山中、季節によっては死を覚悟しなければならない。
(5)超電導コイルに必要な希少金属は世界中で取り合いであり、超電導磁石の原料は確保できるのか?
(6)リニア計画の審議会答申前に行われたパブリックコメントでは73%が否定的だった。コロナ禍の中でリニア計画の根本的見直しの声が各界から上がっている今こそ、政府はリニア計画の見直しを行うべきである。 

(1)から(6)には静岡県の水問題や環境問題とは無関係の内容も含まれている。これを読めば、川勝知事の「リニアに反対しない」は口先だけで、「反リニアの急先鋒」と言ってもおかしくないだろう。

過去の事例はどうだった?

今回のリニア裁判同様に、環境権、人格権の侵害を訴え、事業差し止めを求めたのは、1982年4月の長良川河口堰反対訴訟だ。地域住民20人が、水資源開発公団を相手取り、工事差し止め訴訟を提起した。「科学裁判」の様相を呈したが、12年後の1994年に岐阜地裁は訴えを棄却する判決を出した。

判決では植生を復元し、魚道を設けることで環境への重大な影響を避けられるとし、河口堰が公共の利益をもたらすなどと判断した。当初は流域の漁業関係者を中心とした利害を伴う反対運動だったが、補償の同意が得られると、1988年から本体建設工事が始まった。市民団体らによる「無駄な公共事業」「環境破壊」のシンボルとしてマスメディアが連日取り上げ、大きな社会問題に発展した。

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