生物が「オスとメスとに分かれた」究極の理由 多様性を求めたからこそ人間は絶滅から逃れた

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ゾウリムシにはオス・メスの区別はなく、異なる遺伝子を持つもの同士で行われます。接合の後、分かれたゾウリムシはまたそれぞれ細胞分裂によるクローン繁殖を繰り返します。

多細胞生物になるとゾウリムシみたいに細胞同士の接合という単純な形での遺伝子の交換は難しくなります。そこで、自身の遺伝子セットが半分入った生殖細胞を体内で作って、それを他個体の生殖細胞と合体させることで新しい遺伝子セットの子孫を生み出すという生殖様式を進化させました。つまり精子と卵子の合体=受精です。

「男と女の体」に違いが生まれた理由

しかし、ここでまた疑問が生まれます。なぜ精子と卵子というふたつの生殖細胞が進化したのか、ということです。そしてこれこそが性の分化の根源でもあるわけです。生物が複雑化・高度化するにつれ、成長に時間がかかるようになります。配偶子が接合して細胞分裂を始めて個体に成長するまでの過程を胚発育といいますが、この胚発育には栄養素が必要となります。栄養を外界から吸収したのでは、環境に左右されて途中で成長が失敗するリスクが高くなります。そこで胚が個体になるまでの栄養を蓄えた配偶子として卵が進化します。

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一方、卵は栄養を蓄えた分、個体は大きくなり、生産量を稼ぐことが難しくなります。つまり1回に生産できる数に限りが生じます。数が減れば配偶子同士が出会う確率は低くなってしまいます。そこで限られた卵子に対して、サイズを小さくすることで、大量に生産可能な配偶子が進化します。これが精子の進化です。さらにこの小さな配偶子には、大きくて動きにくい卵子との遭遇確率を上げるための運動性も備わるようになりました。

こうして配偶子に卵と精子という二型が生まれ、それぞれを生産するのに特化した個体としてメスとオスが生まれました。生物が進化して複雑になるにつれ、メスとオスの間の形態的・機能的な差異はどんどん大きくなっていきました。これを性的二型といいます。

高等動物では、機能的な制約で、メスとオスの分化がどんどん進みました。人間でいえば、女性が子どもを生む。男性が狩猟をする。そのようにそれぞれの役割が特殊化すればするほど、女性と男性の体格差は大きくなっていったのです。

五箇 公一 生物学者

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ごか こういち / Kouichi Goka

1990年、京都大学大学院修士課程修了。同年宇部興産株式会社入社。1996年、博士号取得。同年12月から国立環境研究所に転じ、現在は生態リスク評価・対策研究室室長。専門は保全生態学、農薬科学、ダニ学。国や自治体の政策にかかわる多数の委員会および大学の非常勤講師を務めるとともに、テレビや新聞などマスコミを通じて環境科学の普及に力を入れている。

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