第3の注目点は、郵便投票の是非についてである。コロナ下の選挙戦につき、郵便投票を導入する州が増えている。ところがトランプ大統領と共和党は、「郵便投票で不正行為が拡大する」と警鐘を鳴らしている。オレゴン州のように、以前から「全部郵便投票」の州もあるのだから、これは限りなくイチャモンに近い。その真意は、「投票率が上がると俺たちが不利になるから」であろう。
そこでトランプ氏はとんでもないことを考えた。今年6月、米郵政公社(USPS)の総裁に自らの大口献金者であるルイス・デジョイ氏を政治任命したのである。このデジョイ総裁、赤字経営を立て直しますと、郵便ポストの撤去、仕分けセンターの閉鎖、残業制限などのリストラ策を次々と実施した。するとたちまち郵便の遅配が増える。「ほれ見ろ、こんなので郵便投票なんてできっこないだろ」というわけだ。
インターネット時代において、郵便事業が儲からないのはどこの国でも同じこと。だからと言って、ここまでするかとUSPSの現場、特に労組は怒り心頭だ。下院民主党は急きょ、USPSへの補助金予算を可決。ところが上院共和党はそれに反対。実は大統領選挙と同日に行われる議会選挙において、共和党は現在の3議席差のリードが危うくなっている。彼らもまた、郵便選挙は都合が悪いのだ。
まさか「郵便」がカギになるとは・・・
さて、ここで興味深い事件が発生している。8月20日、トランプ氏側近で元首席戦略官、スティーブ・バノン氏が詐欺容疑で逮捕・起訴された。メキシコ国境に壁を作るためのクラウド・ファンディング資金を私的に流用した容疑である。2016年のトランプに逆転大勝利をもたらした天才参謀が、ずいぶん地に落ちる話だが、この容疑を固めたのが郵政公社の警察部門、US Postal Inspection Service(USPIS)だったというから驚きだ。
実はアメリカの郵便局には警察部門がついている。というと、まるで旧国鉄の鉄道公安官みたいだが、アメリカでは昔から州を越えて郵便や通信を使った詐欺事件が多かった。そこで郵政公社内に、警察組織が作られたというわけだ。実際に起訴したのは、ニューヨーク州南部地区の連邦検察である。今や司法省はバー司法長官以下、大統領のイエスマンばかり。そこでニューヨーク州やUSPSなどの「反トランプ連合」が、ひとあわ吹かせてやろうと反撃に出ているようなのだ。
思えば2016年選挙では、投票日直前にヒラリー・クリントン候補の私用「メール」事件が焦点になった。まさか2020年選挙では、「郵便」がカギになろうとは。投票日まであと2カ月、この調子で行くと、何が起きても不思議はなさそうだ(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)。
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