「菅政権」は安倍政権以上に成功の可能性がある 今まで使われていない有効な手段が残っている

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例えば、安倍政権以前の日本の金融政策は、日本銀行の内輪の理論によって、経済官僚が事実上決めていたと筆者は認識している。ただ、第1次安倍政権下の2007年に行われた日本銀行による2回目の利上げに対して、安倍氏は強い疑念を抱いたとされている。そして、安倍氏は、デフレと経済の長期停滞が様々な経済問題をもたらし、そしてその根本原因は金融財政政策が不十分であると認識した。これが、いわゆるアベノミクスが大きな成果を挙げた経緯である。

安倍政権が始まって早々、それまで日本銀行が採用しなかった2%インフレを「共同目標」としてコミットさせ、その上で、日本銀行の執行部(総裁、副総裁)の人事には、従前の慣行にとらわれず、それまで日本銀行の金融政策を批判してきた人物を採用した。この日本銀行の政策転換は、米FRB(連邦準備理事会)をはじめとした各国の中央銀行と同様に、目標と責任を明確にするというだけのことである。

それでもこの政策転換の経済的な効果は大きかった。その後、2012年までの行き過ぎた円高が大きく修正され、停滞していた株式市場が上昇した。そして、金融緩和の効果が実態経済に浸透してデフレが和らいだ。金融政策が一貫して緩和方向に作用して労働市場の需給バランス改善(正常化)が続き、雇用機会が増えて、多くの人の生活苦を緩和したのである。

次期政権は金融財政政策を徹底的に活用すべきだ

責任回避を優先し、内輪の理屈で行動する官僚組織の弊害を見抜き、それを正して国民生活を改善させる責務を果たしたことが、安倍政権の最大の功績だと筆者は考えている。今後、菅政権誕生となれば、安倍政権の経済政策を継承するだろうが、妥当な政策対応が何であるのかを、筆者などよりも安倍政権を支えてきた菅氏は深く理解しているだろう。

これまで2%インフレ目標は実現しておらず道半ばであるが、このことは、コロナ禍前においても、日本の労働市場には一段の改善余地が依然あったことを意味する。2020年のコロナ対応のために金融財政政策の役割が一段と高まっているが、これを徹底的に使えば、安倍政権同様に次期政権が国民の支持を得る可能性は格段に高まるだろう。そして、安倍政権が実行しなかった緊縮財政政策の転換という、有用な政策手段が次期政権に残っていることは明白である。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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