「成功する会社」と「正しい会社」の決定的な差 「トレイルブレイザー」はきれい事の本に非ず

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それに、この本では、自分のSNSでの発信が炎上したことを赤裸々に語ったり、使命感に燃える気持ちを素直な感情にのせてつづっていたりして、非常に面白く読めましたし、誰かが代筆したものではなく、ベニオフ氏自らが自分のストーリーを書いたのだろうなということが伝わってきて、リアルで面白かったです。

企業は「正しいことをする」時代に

ふと思い出したのは、グーグルの社是「Don't be evil(邪悪なことをするな)」です。スピード感のあるIT業界において、法制度も定まらないなか、倫理を保とうとする姿勢は、世界中から賞賛されたものです。

柳澤大輔(やなさわ だいすけ)/面白法人カヤック代表取締役CEO。1974年香港生まれ。1996年慶應義塾大学環境情報学部卒業。1998年に学生時代の友人とともに合資会社カヤックを設立。2005年に株式会社カヤック(通称・面白法人カヤック)に改組。鎌倉に本社を構え、鎌倉からオリジナリティーのあるコンテンツをウェブサイト、スマートフォンアプリ、ソーシャルゲーム市場に発信する。2014年に東証マザーズに上場。著書に『リビング・シフト』『鎌倉資本主義』『アイデアは考えるな。』などがある(写真:柳澤大輔氏提供)

しかし、2015年にアルファベットがグーグルの親会社となったのを機に、このあたりから「Do the right thing(正しいことをしよう)」に変わっているのです。

この社是がすでに変わっているという事実は、意外と日本でも知られていませんし、その意図については僕も推測するしかないのですが、思うに「邪悪なことをするな」というだけでは許されない時代になったということなのではないでしょうか。実際、ビジネスのシーンにおいては、何が正義で、何が悪かというのは、答えがないことが多い。

だから、とくに会社という人工的な生き物においては、利益など数字がすべてになり、利益追求こそが正義になりやすい。その結果、本来なら利益を求めることは社会を幸せにする手段だったはずなのに、手段が目的化してしまい、人間にとって、時に優しくない結果を生み出してしまう。

「邪悪なことをしない」というのは、そうした傾向に歯止めをかけるためのすばらしい社是だと思ったものです。ですが、時代が進み、そんなレベルで動いていては地球環境の破壊をはじめ、もはや間に合わない。

つまり、「何が正しいか悪いかなどということは、究極的にはわからない」という姿勢は、企業としては今や無責任で、自分なりに何が正しいかを徹底的に考えて、正しいことしかしないのだと言い切れる責任が企業には求められている。そんなふうに勝手に解釈しました。

自分たちカヤックという会社も、これまで規模の拡大だけをしてきたつもりはなく、世の中に対してどういうことができるのかを考え、活動してきました。それでも私はこの本を読んで、自分たちなりに、自分たちにしかできない、どのようなことを世の中に対して行っていくか、社会貢献できることは何なのかを、改めて考えさせられました。再エンジンがかかったという感じです。

そしてこの流れは、「SDGs」や「ESG投資」という流れともピッタリ符合していると感じます。こうした考え方に、まだまだ腹落ち感がない経営者も多いのではないでしょうか。

その活動をした先にどうなるのか、絶対にこうなるという未来が見えるわけでもないこともまた、いま一つ真剣に取り組めない要因になっています。だから、なかなか行動までは起こしにくい。しかしこれからは、先を行く経営者は、すでにそういうモードに入っていくのだろうと思います。

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