なぜサッカー部のキャプテンはモテるのか? スポーツと男性差別のメカニズム

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初心者の存在が許されないという男性差別

繰り返しますが、スポーツができるのは健康の証しであり、ぜい肉がなくスリムで、筋肉がある人がモテるというのと同じ現象だとすれば、理解は可能です。でも、カバディ(鬼ごっこみたいなインドの国技)のできる人がモテるでしょうか? 合コンで「今度セパタクロー(足のバレーボールともいわれる東南アジアのスポーツ)一緒にやりません?」ってアリですか?

このセパタクローとスキーの違いは何なのでしょう? 今ならスキーより、スノボでしょうが、テニスとスキーはバブルの頃、いわば「必修科目」でした。何の関係もない文科系のサークルが、夏は高原にテニスに行き、冬はスキーに行ったのです。セパタクローができるとしても、それは「まぁ、変わったサークルに入ってたのね」になるのに対して、スキーはどんなサークルに属していようと、「みんな一緒にやるスポーツ」なので、男性のほうができなければならない。

女性は「教えてぇ~!」と言えても、男性は言ってはならず、逆に教える側に立たなければいけないと考えるのです。「一緒にやるスポーツ」であるがゆえに、性差が問題となって、男性のほうが上手であることが要求されてしまう。なので、男性の初心者は存在が許されず、いきなり中級者から始まるという非道な「男性差別」が生まれるわけです。

サッカー部のキャプテンは、サラリーマンになった今、週末はフットサルをしているかもしれません。「一緒にやるスポーツ」としても、かなりポイントが高そうです。女性もちょこっと入れてもらうことができますし、雰囲気も都会的。ボールを蹴るのは同じなのに、セパタクローとはモテ度はかなり違うはずです。元サッカー部は、今でもやっぱり人気者なのです。

ただ、「なでしこ」の世界ランキングが、「ザック」よりはるかに上の時代に、「スポーツはいつも男が女に教えるもの」って少し無理がありませんか? 見栄を張らずに女性に教えてもらうというのも、この「男性差別」を崩していくひとつの戦略だと思うのですが。昔、体育大学卒の女性と知り合って、「バタフライ教えてくれる?」と聞いたら、「もちろん!」と言われて、ときめいたのを思い出しました。

私はいまだにバタフライをやると、後ろに進んでしまいます……。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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