コロナ禍で「しんどい」のは脳の使い方が問題だ 仕事とプライベートの孤独が疲れを増幅する
――なぜでしょう?
体の疲労と脳の疲労のバランスがすごく悪いんですよ。1日中PCやスマホばかり見ていて外出もしないとなると、体は疲れない。なのに、仕事や人とのコミュニケーションによって脳は酷使されている。
人間の眠りの質が上がるのは、体の疲労と脳の疲労のバランスがよくなるときなんです。体を使わない強制在宅生活を送っていては、よく眠れなくなって当然です。
――なるほど。脳だけ疲れるのがよくないんですね。
ええ。人類の祖先の猿を見ればわかるとおり、人間は「同じところに座って、同じところを見続ける」ようにはできていません。寝ているときに寝返りを打つのも、筋肉を固定しないため。日中ずっと座って作業をするのは、人間にとっては極めて不自然な過ごし方です。
散歩、筋トレ、できるだけ体を動かすようにして、脳だけ疲れている状態を回避していきましょう。
待っているのは孤独と疲労
――適度に体を動かすことも意識するとして、そもそも「脳疲労」って解消できるものなんですか?
これも先ほどお話しした“中腰理論”と共通しているんですが、脳も同じところばっかり使っていないで、いろいろな場所を働かせることが大事なんですよ。
もしもあなたが1人暮らしでずっと家にいて、PC作業ばかりしている人なら、外に出て人と話すといいです。五感をフルに使って。人と話をするのとPCで作業しているときとでは、脳の使う部分がまったく異なりますから、脳疲労という観点でみるとこちらのほうがよい。
――対面で人と会うのが難しい場合、オンラインで話すことも有効ですか?
意味がないことはありませんが、直接会って話したほうが効果は高いです。なぜなら対面での情報量とオンラインでの情報量は、実は何倍も異なるから。写真と動画でデータの保存容量が全然異なりますよね、それと同じことです。(感染には注意が必要ですが)
――なるほど。それはわかりやすいですね。
あとね、孤独って人を疲れさせるんですよ。1人で家にいると、ずっと同じことばっかりしちゃうでしょ? すると、脳も同じところばっかり使ってしまうんです。
しかも、東京なんかはコンビニやスーパーに行っても店員さんと一言も話さずとも物は買えるし、宅配の人が来ても物を受け取るだけだし、効率的だけど脳には刺激の少ない環境です。
さらに、リモートワークによって仕事中も物理的には1人になれるようになった。1人になれる職場と、プライベートでも1人になれるインフラがそろうと、待っているのは単なる“孤独”と“疲労”です。
――人と関わるほうが疲れる、なんて思っていましたが、その逆なんですね。
嫌いな人とずっといるのはもちろんストレスがたまると思いますけど(笑)、脳にいろいろな刺激を与えるという意味では、対面で人と会って「雑談」するのがすごく手っ取り早いんですよ。
対面コミュニケーションの場合は、終わりがしっかりあるのもいいところ。じゃあね、と言って別れれば、会話はそれで終わりますから、チャットコミュニケーションのように「レスをはやく返さなきゃ」という強迫観念に駆られることもないし。
――いずれにしても、「バランス」が重要ですね。
はい。人とのつながりをコントロールし、目、体、頭をバランスよく使って、どこか1カ所に高負荷が掛かるライフスタイルを避けること。こうした工夫を1つひとつ積み重ねることで、しんどい疲れがだんだんと解消できると思います。
〔取材・文/一本麻衣
撮影/小林 正(スポック) 編集/栗原千明(編集部)〕
産業医科大学医学部医学科卒業。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社統括産業医、医療法人社団同友会産業医室を経て現職。社会医学系専門医・指導医 著書「産業医が見る過労自殺企業の内側」(集英社新書)NewsPicks動画OFFRECO出演中。
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