高校入試「コロナ禍での変更」に翻弄される危険 私立難関校の志望者はとくに気をつけよう

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数学で三平方の定理が除外されることは、三平方の定理を使用して解く問題が出題できなくなることを意味します。数学の図形分野、とくに空間図形の出題には影響があるものと思われます。

ただし、図形はいろいろな出題の仕方が可能なため、これで一概に易しくなるというわけではありません。中学校2年生で学習する合同と証明、中学校3年生で学習する相似な図形や円などを組み合わせた問題も想定されます。さらにいえば、三角形の「高さ」を提示した問題にしてしまえば、難度の高い図形問題の出題が可能です。

英語では関係代名詞の一部が除外されますが、関係代名詞の表現が問題に出てこない、ということではありません。関係代名詞の知識が必要な問題が出題されないだけで、長文読解問題の本文には、注釈が入るなどして、関係代名詞の表現が使われることも考えられます。除外範囲ではありますが、関係代名詞の表現に慣れておくと、スムーズに問題を読み進められるでしょう。

「除外=全く出ない」ではない

注意していただきたいのは、東京都教育委員会が発表した「出題範囲の変更」は、あくまで都立高校入試が対象です。出題範囲の縮小など、入試への配慮は一部自治体のみです。例年通りの自治体も多数あります。必ず、お住まいの地域の情報をご確認ください。

出題範囲が縮小される自治体でも、私立高校は独自に出題範囲を決めることができるので、学校によっては、例年通りの出題範囲となる可能性もあります。

さらに、「出題範囲から除外」といっても、「知っていることを前提に問わなければいい」とも解釈でき、「全く出ない」とは言い切れません。

例えば、大学入試の地理歴史や生物などでは、教科書に載っていない資料・新発見などをリード文で説明したうえで、その初見の知識をもとに考えさせる出題が見られます。近年、高校入試でも、初見の資料や知識を補助輪のように提示し、それをもとに、「思考させて解かせる」ような「思考力問題」が増えています。

高校入試における三平方の定理にしても、図形の「高さ」をあらかじめ提示すれば、難しい図形問題の出題が可能です。

こうした出題への対策は、過去問でできなかったり、既存の参考書には載っていなかったりする可能性があります。塾に通っていれば、塾が今年用の対策をしてくれるでしょうが、自力でやる場合は、学校の先生とも相談しながら、受験勉強をすすめるのがよいでしょう。

公立高校の上位校を受験する生徒は、大学合格実績に定評のある私立進学校や、早慶などの大学附属高などのいわゆる私立難関校を併願します。私立難関校では出題範囲の縮小を行わない可能性もあるので、例年通りの対策をする必要があります。

塾に通っていなくても、必要以上に不安に駆られることはありませんが、受験を予定している学校の募集要項や最新の入試情報はしっかり確認してください。

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今回、試験範囲から除外される分野が、学習指導要領から除外されるわけではないことにも注意が必要です。除外された範囲には、高校の学習の基盤になる重要な単元も含まれていますし、私立高校は例年通りの入試を行う可能性があることを踏まえても、高校入学前に身につけておくのがよいでしょう。進学塾でも、例年通り学習カリキュラムを進めるところがほとんどです。

来春の高校入試は、例年とは異なる部分もあり、中学3年生のみなさんにとっては、不安になることも多いでしょう。しかし、出題範囲の縮小などの変更点にあまり惑わされず、まずは、現在の学習内容を確実に身につけ、来るべき入試に備えましょう。

内田 幸仁 栄光ゼミナール 高校入試責任者

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うちだ ゆきひと / Yukihito Uchida

「栄光ゼミナール」の首都圏の教室で、20年にわたり高校入試の国語を指導している。また、国立・早慶・難関公立をはじめとする難関高校対策ゼミの責任者を担当。毎年多くの生徒を、難関公立・国立・私立高校への合格に導く。2018年より栄光ゼミナールの高校入試責任者として、高校入試問題の分析や情報収集、社内外への情報発信なども行っている。

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