コロナ危機が導く「グローバリズム以後」の世界 「東京五輪」と「大阪万博」を諦めない日本の末路

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:緊急の危機対応は別として、佐藤さんも指摘されたように、国民の分断を抑えて一体感を守っていくという視点からは、政治の意思決定システムにしても、国民各層の意見をきちんと聞いて採り入れ、合意を取ったうえで政策を進めていくボトムアップのスタイルを重視すべきでしょう。日本は、かつてはそれが自然にできていたのに、最近は全然できなくなっている印象があります。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

昨年の大学入試の英語改革も、現場の意見を聞かずに進めたために混乱してしまいました。少し前に議論されていた9月入学の問題も、当初、安倍政権は「前広に」などと言って進める強い意欲を見せていましたが、結局は「やっぱりやめよう」という話になりました。現場の声に耳を傾けずに進めてしまう傾向は変わっていませんね。

中野:現場の声をトップが吸い上げていくうえでは、実はその間をつなぐミドル層の働きが重要です。集団で行動する場合、トップダウンだけでは全体にうまく意思が伝わらない。ミドル層が現場から声を吸い上げて上に伝え、上からの指示を噛んで含めるように部下に伝えて合意形成をしないと、集団がスムーズに動けないということがある。トップが速く適切な決断を下しやすいように情報を集約し、オプションをいくつかに絞って渡すというのも、ミドルの役割です。

ところが、この何十年か、企業でも官庁でも、「余計な中間管理職はいらない」「迅速な意思決定が必要だ」などと言って、ミドルを薄くするのが流行ってきた。コスト削減のための中抜きですよ。今でもみんな「ウェーバー的な階層組織はもう古い。これからは分散型だ」とか「フラット組織で」などと言っている。

しかし中間層がしっかりしていないと、組織というものは、日本に限らず、きちんと機能しない。意思決定は迅速になるかもしれないが、間違った意思決定が迅速になるだけ。次世代のトップがミドルでの経験で育つという面もある。

行政で言えば、官邸と業界をつなぐ役割として官僚組織があったものが、それを解体して機能を奪ってきたことで、かえって、うまく機能しなくなっている。企業でも同じだと思いますよ。

危機に対応できない脆弱な行政組織

佐藤:平成30年間、緊縮の発想で効率にこだわりすぎたあげく、危機に際して見事に非効率な対応をやらかす行政組織をつくりあげた。

:集団が集団として機能するには、やはり一体感が不可欠でしょう。しかしこの20~30年の日本では、政治も企業も、そういった視点をまったく持っていませんでした。新自由主義を無自覚に採り入れ、コスト削減のために安易にリストラしたり、格差の拡大や貧困の増加を放置したりし、日本の本来の強みである共同体的な意識やボトムアップの意思決定のシステムを破壊するようなことばかりやってきた。

今回のコロナ危機ではまだ過去の遺産で、罰則なしでもどうにか国民が協調行動をとってくれましたが、あと10年もすると、そういう貯金もなくなってしまうのではないかと思います。

柴山:10年後にもっと強力な感染症が来たとしたら、今の状態ではとても持ちません。

久保田 正志 ライター

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くぼた まさし / Masashi Kubota

1960年東京都品川区生まれ。経済系フリーライターとしてプレジデント社・東洋経済新報社・朝日新聞出版社などで取材・執筆活動を行っている。著書に『価格.com 賢者の買い物』(日刊スポーツ出版)。ペンネームで小説、脚本等フィクション作品も手がけている。

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