コロナ危機が導く「グローバリズム以後」の世界 「東京五輪」と「大阪万博」を諦めない日本の末路

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佐藤:むろん、このすべては現実逃避です。感染症である以上、政府と国民が一丸とならないかぎり、コロナ制圧はうまくいきません。自己責任で押し通したら、感染被害と経済被害がそろって拡大するだけでなく、国民の連帯意識もガタガタに崩れます。

目先のコストやストレスに耐えきれず、弱者切り捨てに走ったことになりますから、ずばり「今だけ、カネだけ、自分だけ」。仮になんとか乗り切れたとしても、そのあと日本が再度、発展するとは信じられない。

柴山:新自由主義とのからみで言うなら、今回の危機では小さな政府を志向して行政コストを削減してきた国ほど、ひどいことになっているという印象がありますね。イギリスしかり、アメリカしかりです。

日本も同じで、学校の先生の非正規化を進めたり、行政に関わる職員も非常勤に切り替えたりするようなことを続けてきた。医療でも効率化と称して、保健所を統廃合して数を減らすようなことをやってきた。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(ともに集英社新書)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬舎新書)などがある。(撮影:今井 康一)

中野:専門家会議のある先生も、「なんで韓国みたいにPCR検査をやらないんだ」と言われて、「この20年間、保健所の数を減らしておいて、そんなこと簡単にできるか」と怒ってましたね。

柴山:大阪でも、これまでずっと保健所を減らしたり職員を削ったりしてきて、それを改革の成果だと誇ったりしてきたわけですね。ニューヨークも同じです。行きすぎたコスト削減の結果、危機が起きると全然対応できず、医療崩壊を招いてしまった。

日本の給付金の遅配についても、ただでさえ少ない職員で業務をやればパンクしてしまうところが出てくるのは避けられない。この30年間の行政改革で、いろんな問題が次々に出てきている。

佐藤:わが国は目下、「敗戦このかたナショナリズムを否定したうえ、新自由主義的な構造改革まで30年も進めたあとで、ナショナリズムなしには対処できない国家的危機に直面するとどうなるか」という、恐るべき社会実験をやっているんですよ。

柴山:問題はそういう状態になっているにもかかわらず、官民ともに反省の声が全然上がってこないことですね。行政改革の流れがまずかったという話にはならず、むしろ「行政はしっかりしろ」という話になっている。社会の複雑化で行政需要は増える一方なのに、数を減らしてきたわけですから、いくら現場が努力してもいつかパンクするのは目に見えています。

政治の意思決定はいかにあるべきか

:今回の危機で官邸は、「専門家会議がそう言っているから」という理由で、少々逃げの姿勢が表れていましたね。

柴山:安倍政権のいつものやり方ですね。こういう責任逃れは一番批判されるべき点ではないかと感じます。危機にあたって責任を果たす意志がないということですから。

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