「支配人の9割が女性」東横インの驚きの仕組み

未経験の専業主婦から支配人になった人も

支配人として最初に着任したのは仙台の店舗。フロント、客室清掃係、朝食係などすべてのスタッフが自分よりベテランである。最初のあいさつで、平野支配人は皆にこう話した。

「私は何もできないけれど、責任は取ります」

これは、実のところ、マネジメントの職務の本質を捉えた発言だった。管理職の仕事は、部下のやる気を引き出して働いてもらい、成果をあげ、最終的な責任を取ることだからだ。「経理、総務など支配人の責任分野は幅広いです。毎日さまざまなことが起きて忙しかったけれど、本当に充実していました」。友人たちからは「今の仕事は平野さんが本来もっていたものを生かせている」と言われる。

「これまで20年間、妻や親として、周囲の人を優先するのが役割だと思って生きてきました。実際、子どもは一生懸命、育てました。でも、どこかで家の外に出たい気持ちもあった。支配人の仕事で社会に出たことで、私らしさが全開になっている感じがします」

2人の女性支配人の「共通点」

中野さんと平野さんの経歴は異なるが、共通点も多い。

まず、2人ともホテル業は未経験であること。そして、40代に入ってから自ら希望して支配人になったこと。さらに、数えきれないほど起きる仕事上の課題を前向きに乗り越えていることだ。

ここに、東横INNの人材マネジメントの特徴が表れている。採用においては、未経験者を歓迎し、勤務経験ではなく「人で苦労した体験」を尋ねる。これは社長の黒田麻衣子さんの方針だ。「人間関係の苦労とそれを乗り越えた経験、そこから学んだもの」を尋ねることで、支配人に向いているか否かの判断材料の1つにしている。

長い間、労働市場を離れていたことも、高めの年齢も不利にはならない。むしろ、家族や親戚、地域やPTA活動で人と触れ合った経験がすべて評価の対象になる。黒田社長は創業者の娘だが、当初はホテル業を継ぐ予定はなく、専業主婦をしていた。創業当時から女性支配人が多かったという。

そして、支配人になるのは、会社からの命令ではなく本人の希望ということも重要だ。中野さんは当初「支配人補佐」として入社し、数年働くうちに先輩支配人の働きぶりを見て「自分もやってみたい」と自ら手を挙げた。平野さんもパート主婦時代に自ら支配人募集に応募した。

ここには、職歴や現在の仕事ではなく、本人の意思を重視する人材マネジメントの特徴が表れている。多くの日本企業には立派な経歴を持つ女性社員がいる。その中に「私はいいです……」と昇進を遠慮する人がいる。本心はどうあれ、その言動を見て「女性は管理職になりたがらない」と雇用主が思い込んでしまう。その結果、日本は女性活躍後進国になっている――20年余りこのテーマを取材して、私が捉えた課題の構図だ。

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