「支配人の9割が女性」東横インの驚きの仕組み 未経験の専業主婦から支配人になった人も

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東横インの客室(写真は「東横INN大阪天神橋筋六丁目」)

多くの日本企業が女性を登用したいと一般論では言いながら、何をしてこなかったか。東横INNの事例から得られる気づきは多いはずだ。

同社が「人で苦労したこと」や「本人の意思」を重視するのは、支配人の仕事が決して易しくないことを表している。多くの支配人は、自分よりベテランの現場で働く人たちの中に、入っていく。現場スタッフたちから「試される」ことも少なくないし、マネジメントが下手だとスタッフをまとめられない。ここで生きるのは職歴ではなく人間関係にいかに対処してきたか、という経験であり、支配人の仕事に対する意欲や経済的自立への意思と必要性なのである。

支配人に求められる「資質」

ところで、ホテルは24時間稼働している。支配人の働き方はいかなるものか。支配人として入社する際、契約書に提示されるのは、実働1日8時間、週40時間が目安だが、実際には、仕事の特性上、このとおりにならないことも多く、個人の時間管理能力により変わってくるということだ。

仕事が気になって休めないとか、完璧主義で人に任せられないと、心身共に疲れてしまい続かない。自分で仕事と休みのメリハリをつけられる人が向いている。子どもがいる場合は、留守番などができる「中学生以上が望ましいですが、同居している配偶者や祖父母がいるなど、育児サポート体制があれば小学生でも大丈夫」(広報部)という。いったん家庭に入り育児をしていた人が、第2の人生としてキャリアを追求するには挑戦しがいがある。

メンタリングや情報共有の仕組みも重要だ。中野さん、平野さん両方から、何度も出てきたのは、同じ地域のほかの支配人にわからないことを尋ねて教えてもらえること、そして「委員会」の存在である。

東横INNの支配人は、自分の店舗の人事管理や収益責任などを持つだけでなく、全社レベルの経営改善にも関わる。例えば客室をより魅力的にする、原価率を下げるなど、テーマごとに委員会が設けられ、支配人たちはそうした委員会活動にも携わる。仕事でわからないことは、担当の委員に教えてもらえるし、委員会活動を通じて、近隣だけでなく全国の支配人と交流し社内人脈を構築できる。

30代後半、40代に入ると再就職や転職は難しい。とくに地方都市では、夫の転勤などを機に仕事を辞めて家庭に入ったものの、再び働きたい、でも仕事がない、という女性の声をよく聞く。

年齢や経験ではなく、やる気と能力を見抜き、生かす東横インのような人材マネジメントがもっと広がれば、眠っている女性の能力が生かされ、企業経営にとってもプラスになるはず。全国にいるはずの中野さん、平野さんのような女性たちにチャンスが増えてほしい。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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