経営者は方向性を的確に語りかけ、疲弊感をぬぐえ--『経営の教科書』を書いた新将命氏(国際ビジネスブレイン代表取締役、ジョンソン・エンド・ジョンソン元社長)に聞く
--社是、社訓というものはほとんどの会社にあります。
このビジョン、使命感、価値観を盛り込んで、高い評価を得ているのが、12年勤め、うち8年社長を務めたジョンソン・エンド・ジョンソンの「我が信条」だ。これが大いに社員の支えになっている。
多様化の時代で、ますます違った経験や文化を体現した価値観の異なる社員が増えている。へたすると、「烏合の衆」になってしまう。それに対し、経営の大本のところでわが社はどうなりたいかビジョンを示し、どういう責任があるか使命感をはっきりさせ、そして同じ価値観を求心力として働かせる。生産性はきわめて高かった。
ただし、理念だけではめしは食えない。いわば「理念足す数字」、つまり目標が必要だ。理念は抽象的、哲学的、概念的だが、目標は計数的、具体的だ。目標を達成する大枠としてのやり方のことを戦略という。その戦略を具体的に細かく現場に落とし込んだものが戦術だ。
経営には流れがあって、経営トップが真っ先にやるべきなのは理念作り。それから数字を付加した目標作りに進み、目標を達成する大枠としての戦略作りをする。ここまでが経営者の仕事。これをしない人は「名ばかり経営者」だ。戦略を具体的に落とし込む戦術は経営者の仕事ではなくて、担当者の仕事だ。
現在の日本の経営トップをはたから見ていると、多くの人が短期目標と戦術を声をからしてわめき立てている。理念と戦略を十分に社員に語っていない。やるべきでないことに時間を費やし、やらなければいけないことに手抜きをする。こんな会社は長続きするはずがない。
--企業にとって持続性(サステナビリティ)が大事なはずです。
企業のサステナビリティは三つの柱が支える。社員満足、顧客満足、社会・環境満足だ。この三つの満足を果たすために経営者は大いに考え、実行させる。
まず社員の仕事に「やらされ感」ではなくて、「やりたい感」を持たせる。「やらされ感」を漢字で表現すれば強制動機、「やりたい感」は内面動機となる。ある調査によれば、「やらされ感」で仕事をしている場合と、「やりたい感」で仕事をやっている場合では、同じことをやってもそのモチベーションに2・6倍の強さの格差が出てきたという。
言葉を換えれば、「いやいやモード」でなくて「わくわくモード」で仕事する。これができる会社はホンモノであり、できない会社はニセモノの経営者だ。経営を預かる者にとって基本の心得だ。