コロナでライフシフトした男女4人「夏物語」 収入減って幸せ、夢を追求することにした…

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演劇を学んだニコラ・ブロック(35)は、シドニーからロンドンまでを股にかけ、セットや衣装のデザインを次々に請け負いながら、この業界で10年のキャリアを積んできた。コロナウイルスの流行が始まったときは、劇場デザイナーとして私立学校で働いていた。ブロックは一時帰休となり、学校は契約満了となる6月末までの賃金を全額保証してくれた。

だが、演劇の未来には暗雲が立ち込めている。生の舞台が再開できるようになったとしても、危険を冒してまで人で混み合うウエストエンド(ロンドンの劇場街)の公演に足を運ぶ人がどれだけいるかはわからない。

ブロックは転職を決意した。9月から、ロンドン南東部の小学校で教育助手の仕事を始める予定だ。契約期間は12カ月。

決断は簡単ではなかった。

「本当に悩んでいる」とブロックは言う。「興味のあることだし、やりたいことだから、その点ではありがたい。だけど、その一方では何かを諦めようとしているような気もする」。教育の仕事は演劇よりもはるかに安定しているとブロックは考えている。「世の中の仕事は減る一方。だから、自分が持っているスキルはうまく生かさないと」。

収入が減って、幸せが増えた

アンジェラ・ソーンダース(39)は、これからをとても楽しみにしている。この10年間、彼女は夫と一緒にイングランド北東部スカボローでホスピタリティやケータリングの人材斡旋会社を経営し、レストランやホテルの求人を斡旋してきた。ここにはロンドンの最高級ホテル「サボイ」の案件も含まれる。

そのすべてが今回のパンデミックで終わった。かつて月に9000ポンド(約125万円)あった売り上げは、ゼロへと真っ逆さまに落ちていった。

「悪夢だった」とソーンダースは言う。

ところが、突如訪れた職業生活の混乱によって、思わぬ恩恵がもたらされた「家で過ごす時間が増えた」と話すソーンダースには、7歳と10歳の息子がいる。「私たち夫婦は生き方を変えた。以前よりも、ずっと幸せを感じる」。

現在は政府の休業給付で生活しており、その額は夫と合わせて毎月1500ポンド(約20万円)近くになる。自宅で過ごす時間は、コロナ後の職業人生を見直すいい機会を与えてくれている。

ホテルやレストランを取り巻く状況は非常に不透明で、ビジネスを再開できる可能性は低い。そこでソーンダース夫妻は、方向転換してヴィンテージの古着売買を始めることにした。数年前に2人で行っていた事業だ。全国各地のヴィンテージフェアやマーケットに出店していた。ソーンダースはすでにフェイスブックページも開設している。

「人材斡旋ならけっこう稼げる。だけど、一歩引いてみて気がついた。そこそこの収入でも幸せが増えるなら、その方がいいんだ、って」

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