久保建英の「新天地選び」が成功でしかない理由 知られざる会長の財力と日本とのネットワーク

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このうち3分の2に当たる95億〜100億円がテレビ放映権の分配金。それ以外にスポンサー収入や入場料収入などがあるが、アカデミーで育てた有望選手の売却収入もかなり重要な要素になっている。

「2000年代に入ってレアルも下部組織の充実に巨額投資を始めましたが、フェルナンド・ロイグ会長のビジャレアルも敏感に反応。練習場やクラブハウスの整備に力を入れ、約20年で多くのタレントを輩出しました。会長など幹部はトップチームの試合よりユースの試合を優先し、必ずスタジアムに出向くといいます。こうした温かさと真摯な姿勢が選手や保護者に高く評価されていると聞きます。

理想のトップチームは『メンバーの3分の1が地元出身』と評されますが、昨季のビジャレアルを見ると、DFのマリオ・ガスパールやMFアルベルト・モレノなど軸となるポジションにアカデミー育ちが配置され、だいたい3分の1程度を占めています。こうした側面からも、クラブの明確なビジョンが感じ取れます」(酒井氏)

久保の成功を後押しする日本人女性

ビジャレアルの生命線の1つと位置付けられるアカデミーに、日本人女性指導者の佐伯夕利子氏(現Jリーグ常勤理事)が2008年から携わっている点も見逃せない。

1990年代からスペインに居を構える佐伯氏は、18年前からビジャレアルと日本の交流の懸け橋となり、さまざまな日本のチームが遠征に赴くようになっている。2018年には鹿島学園高校が提携契約を締結。日本における育成事業の拠点となる「カシマアカデミーフットボールクラブ」も創設している。

すでに存在する日本とのパイプが、久保の加入によって一段と太くなる可能性は大いにある。コロナ禍の今は難しいだろうが、来夏にビジャレアルが日本遠征を行うといったプランも浮上するかもしれない。

2019年夏にもJリーグは「インターナショナルシリーズ」と銘打って、マンチェスター・シティを招聘し、横浜F・マリノスとの親善試合を組んでいる。佐伯氏がJリーグの常勤理事を務めていることもあって、話はよりスムーズに進みそうだ。あくまで案ではあるが、実現すれば多くのファンが喜ぶし、集客も大いに見込めるだろう。

もちろん久保のユニフォームも日本市場では売れるだろうし、ビジネス面においても彼の加入メリットは少なくないのだ。

久保自身はスペイン語が堪能で、前出のロティーナ監督が言うように現地適応には何の支障もない。それでも、佐伯氏という頼れる存在が近くにいることは、やはり心強いはず。11日のクラブ公式ツイッターにも久保が佐伯氏に直々に頭を下げている写真がアップされていて、2人の関係構築は進みそうだ。それが彼自身の飛躍、そして日本サッカーのレベルアップにつながれば、まさに理想的なシナリオだ。

フェルナンド・ロイグ会長という名経営者がマネージメントする健全経営の安定クラブで、日本の希望の星である久保建英がどのような変貌を遂げるのか。9月12日の新シーズン開幕が今から待ち遠しい。(一部敬称略)

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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