爆発起きた「レバノン」の手が付けられない惨状 政治的怠慢のツケを国民が払わされている

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こうした中での大規模爆発だが、イスラエル軍は関与を否定。大勢の無実の市民を巻き込んでいることからも、ピンポイントで標的を狙うイスラエルの手口とは異なる。

いずれにしても、首都にTNT火薬数百トン相当の爆発物を放置していた怠慢が爆発の原因であり、レバノンの失政ぶりを象徴している。そもそも、こんな危険物がなぜ、放置されることになったのか。ことは2013年9月までさかのぼる。

爆撃を受けた地域の爆発前と爆発後の様子(写真:Russian space agency Roscosmos/Handout via REUTERS)

ロシアの船会社が所有していたモルドバ船籍の貨物船がトラブルでベイルートの港に寄港し、手続き上の問題が重なり、積荷の硝酸アンモニウム約2750トンがレバノン税関によって押収された。船主は、船の所有権を放棄し、この積荷も行き場を失った。

ツイッターに投稿された画像によると、硝酸アンモニウム約2750トンはがら袋に入られて積み上げられ、安全に管理されていたとは言い難い。危険性は、港湾当局や税関当局も認識しており、税関トップから司法当局に5〜6回の対応を促す書簡が送られたとされるが、対処されなかった。書簡では、海外輸出やレバノン軍への供与、ダイナマイトを扱う民間会社への売却が提案されていたという。

早くも責任のなすり合い

ディアブ首相は、司法相や内相、防衛相、軍など4つの治安部門トップによる調査委員会を設置し、数日中に内閣に調査結果を報告するよう命じた。ただ、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、早くも責任のなすり合いが始まっている。

港湾当局を所管するナッジャール公共事業・運輸相は、危険物の存在は爆発の11日前に知ったと主張し、「倉庫やコンテナに何が入っているのか知っている大臣は存在しない。それを知ることはわたしの職務ではない」と言い切った。

爆発では約30万人が家を失ったとされる(写真:REUTERS/Aziz Taher)

公共事業・運輸省は、司法当局に対応を求める書簡を何度も送ったといい、ナッジャール氏は「司法当局は何も対応しなかった。職務怠慢だ」と主張。これに対し、司法関係者は「主要な法的責任は港を監督している港湾当局やそれを管轄する公共事業・運輸省のほか、税関当局にある」と反論する。

このように責任の押し付け合いが熱を帯びているほか、前述したように、レバノンは宗派による権力配分型政治が続いており、特定の人物や勢力を批判したり、やり玉に上げたりすると、宗派間対立を招いてしまうことから責任追及はあいまいになりがちだ。

レバノンが金融危機に見舞われているのも、政治腐敗による組織的な経済失政の色合いが濃い。政治家や財界重鎮が金融機関を牛耳るレバノンの金融システムは、金融機関が国家に貸し付けて得た利子で、政治家や有力一族ら大口顧客に法外な利息を提供するなど「巨大なポンジ・スキーム」と揶揄されている。

詐欺師チャールズ・ポンジの名に由来するこのスキームとは、実際には資金を運用せずに自転車操業的に行う詐欺行為の一種。レバノンでは、最終的に国家が債務を返済できずに国民がツケを支払わされている。

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